商社各社は天然ガス取引などで培った調達ノウハウを生かして新燃料の供給体制を構築する。
大手商社が、燃やしても二酸化炭素(CO2)を出さないアンモニアの供給網整備を本格化させている。国が脱炭素化を進める上で有力な発電用燃料と位置付け、大手電力やメーカーが石炭からの切り替えを検討しているからだ。近く石炭などの既存燃料との価格差を埋める国の新たな補助金の公募も始まる見通し。商社各社は天然ガス取引などで培った調達ノウハウを生かして新燃料の供給体制を構築する。
三菱商事は今年に入り、調達先の強化に乗り出している。9月に、米石油大手エクソンモービルが米テキサス州で推進するアンモニアや水素の製造プロジェクトへの参画を検討すると発表。出光興産やスイスの化学メーカー「プロマン」と協業し、天然ガスを原料にアンモニアを製造する米ルイジアナ州と合わせて、主要2拠点と位置付ける。
それぞれアンモニアを年間100万トン超、約120万トンを製造する計画で、令和12年までにこのうちの一部を日本向けに出荷する。
三菱商事は四国電力やマツダなどと組んで、愛媛県今治市で子会社の波方(なみかた)ターミナルが持つ液化石油ガス(LPG)の貯蔵施設をアンモニアの受け入れ拠点として整備することも計画。腐食耐性が向上するように加工することで、タンクやパイプ、桟橋など既存設備を転用し、コスト削減を図る。
既に事業化に向けた調査を終え、基本設計の作成や費用計算、建設計画の策定などに入っているという。12年までに約100万トンのアンモニアを受け入れ、四電の火力発電所、マツダの工場の熱源や自家発電設備向けなどに供給する。三菱商事の村尾亮一次世代発電燃料事業部長は「LPGとアンモニアは特性が似ており、LPGで培った取り扱いのノウハウが生かせる。(転用設備を)早く安全に立ち上げることができる」と話す。
伊藤忠商事は6月、九州電力などと共同で北九州市で受け入れ拠点の整備に向け調査を始めた。エネルギー商社の日本コークス工業が貯蔵施設を新設し、日本製鉄などが使用する見通しだ。三井物産も丸紅や北海道電力などと北海道苫小牧市を含む3地域で受け入れ拠点の整備を検討。これを踏まえて、5月にアラブ首長国連邦(UAE)でアンモニア製造プラントの建設を開始した。9年に製造を始める。
現在、アンモニアは主に肥料や化学品の原料として利用されている。経済産業省の資料によると年間約100万トンが消費されており、取り扱いに関する指針も整備され、安全に輸送する技術が確立されている。分解すれば、燃料電池車(FCV)の燃料となる水素を取り出すことも可能だ。
発電に関しては、電力会社で商用化に向け石炭火力にアンモニアを混ぜて燃やす「混焼」の試みが進む。将来的にはアンモニアだけを燃料として使用する「専焼」も始まる見通しになっている。
アンモニアは比較的取り扱いやすく、一定の需要が見込まれるが、課題は価格だ。大手商社によると、石炭に比べて調達コストは5〜6倍高いという。このため、国は月内にも既存燃料とアンモニア・水素の価格差を埋める補助金の拠出に向け、希望する事業者の公募を始める。15年間で計3兆円の支援を検討している。現状で燃料需要はほぼゼロだが、国は補助金で後押しし12年に年間300万トンの需要を創出することを目指す。
次世代エネルギーに詳しい日本政策投資銀行産業調査部の梅津譜(ひろき)調査役は「アンモニアの利用を拡大していくためには、使う側に対する政策支援も充実させていく必要がある」と指摘している。(佐藤克史)
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明治学院大学 経済学部准教授