小説やエッセイを読んだ際、さりげなく登場する料理の名前や描写が、読後にまでも深く印象を残していることはないでしょうか。作品に叙情的な厚みを加え、強烈なイメージとなって脳裏に焼き付く料理は、作家が思い入れや意図を持って配置した作品の重要なエッセンスともいえます。実際、食に強いこだわりを持つ作家は多く、彼らの著作に贔屓の料理店の名前が繰り返し出てくるのもよくあることですよね。今回は、明治〜現代までの文豪と関係深い料理店をチョイスして紹介したいと思います。
西洋料理店の草分けとして知られる「資生堂パーラー」は、前身の「ソーダファウンテン」時代より、永井荷風、谷崎潤一郎など多くの文人が通った名店です。食通として有名な池波正太郎も、この店を愛したひとり。著書「散歩のとき何か食べたくなって」では、「戦前の銀座が、いまも尚、味に残っている」として、少年時代に初めて訪れた際の感動と、洗練された料理への想いを語っています。「ミートクロケット」や「チキンライス」など、池波も食した伝統的メニューを味わいつつ、銀座の今昔に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
三島由紀夫が最後の晩餐として選んだ鳥割烹の店、「末げん」。創業は1909年。三島は、同店の伝統的な鳥料理を愛し、足繁く通っていたといいます。決起前夜に食した軍鶏鍋は、現在も夜の「わ」コースで味わうことが可能。料金は8640円〜で、全6品〜9品までの4種類のコースを揃えています。気軽に訪れやすい昼時は、ひき肉を使用した親子丼の「かま定食」を提供。奥久滋軍鶏、東京軍鶏、地養鶏、合鴨をブレンドしたひき肉は甘くしっとりと味付けられ、懐かしい味わいです。
店構え、店内ともに純和風の民家のような雰囲気を漂わせる「芳味亭」は、1933年創業の洋食店。戦後を代表する脚本家であり、小説家、エッセイストでもあった向田邦子は、47歳にして人形町を初めて訪れ、以来たびたび同店にも足を運んだといいます。三和土の玄関、畳の小上がりなど、昭和情緒たっぷりの店内では、「スチュー」や「オールドオーブル」など、昔懐かしい味の定番洋食を提供。初めて訪ねるなら、コロッケやハンバーグ、海老フライなどの人気メニューが一度に味わえる『洋食弁当』がおすすめです。
この他にも「東京、文豪の愛した料理店10選」では、下町の洋食店や老舗の和食店など、いずれも文豪が活躍した当時から営業を続ける老舗を紹介しています。往時に想いを馳せながら、長きにわたって受け継がれてきた味を堪能してください。
著者プロフィール:タイムアウト東京 編集 五十嵐淳
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