存在さえ危ぶまれる日本の製造業――マーケティングの見直しを顧客関係のマネジメント(1/2 ページ)

復権を目指し、商品開発にまい進する日本のメーカー。しかし経営指標を見ても海外メーカーとの差は歴然としている。過剰な品質で価格競争にはまってしまう前にやるべきことがある。

» 2008年06月28日 07時24分 公開
[石井淳蔵(流通科学大学学長),ITmedia]

日本のメーカーは存続していけるか

 周知のように、日本では今、国をあげてモノ作りによる失地回復が推進されている。そのために、メーカーは必死になって商品開発を続けている。しかし、それで本当に勢いを盛り返すことができるのだろうか。極めて疑問だと言わざるを得ない。

 と言うのも、日本のメーカーの投資収益率を見てみると、30年前をピークにして、完全に右肩下がりになっているからだ。例えば、加工食品メーカーの投資収益率は、40年前には平均で6%だったものが、ほぼ一貫して下降し続け、現在では3%前後で推移しているのが現状である。

 それよりさらに深刻な状況にあるのが電機メーカーだ。確かに例外はあるものの、全体としては同じく低下傾向にあり、しかもその投資収益率は良くても3%といったところであり、ほとんどが1%か2%程度となっているのだ。これでは、5年後を考えても、V字回復するというようなことはとてもありそうにない。

 それに対して、海外企業の営業利益率を見てみると、なんと日本企業の10倍くらいになっているのだ。例えばP&Gは20%の営業利益率を確保しており、ある商品の営業利益率が20%を割ると、すぐにその商品の広告は打ち切りになるという。さらにコカコーラの場合は、営業利益率はなんと30%を超えている。まさに驚異的だ。また、BtoBの企業でも、ほとんどが高い営業利益率を維持している。

 もちろん、営業利益率は企業の性格や国の経済・社会のあり方によって違ってくるので、高ければいいとは必ずしも言えない。従って、最も大きな問題は、利益率の大きさではなく、日本のメーカーの投資収益率が下がり続けているということだ。

 このままでは、日本のメーカーは今後、成熟した市場に対応しながら存続していけるのかどうかが危ぶまれる。日本では、製造業というものが果たして成立し得るのだろうか、と疑わざるを得なくなる。

過剰品質が価格競争への道を作る

 日本のメーカーが、それだけ危機的な状況に陥っているということは、取りも直さず、これまでのやり方ではもはややっていけないということだ。日本のメーカーはこれまで、次々に新しい商品を開発し、市場に投入し続けてきた。その結果として、今のような状況が招来された。となると、そのやり方はやはり考え直さないといけないだろう。

 同様に、消費者の期待・要望以上の品質を実現しようとする過剰品質も見直す必要がある。過剰品質に陥ってしまうと、どうしても価格競争に飛び込まざるを得なくなり、結果的に利益が圧迫されることになる。

 その意味で、日本のメーカーは従来からのマーケティングを考え直す必要がある。新商品を次々に出すというマーケティングにいつまでも頼り続けるわけにはいかないのだ。

 P&Gやネスルなどでは、10年ほど前から顧客とのリレーションシップを非常に重視し、ブランドを見直すことに焦点を置いている。顧客にとって自社のブランドがどう見えているのかという観点から、ブランドのありようを考えているのである。つまり、ブランドと顧客との関係を少し変える、またはより親密にするということに焦点を絞ったマーケティングを行っているのである。

 日本のメーカーもやはり、顧客との関係に着目したマーケティングに転換していく必要がある。顧客との関係にこそ問題が起きているのだから、顧客との関係をどう作っていくか、新しい関係をどう作り直すかということを考えるマーケティングでなければいけないのだ。

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