ITmedia エンタープライズとITRは「パンデミック対策」の読者調査を9〜10月に実施した。マニュアル策定によるパンデミック対策は7割以上の企業が実施していたが、IT製品やサービスを活用した対策はまだ普及していないことが浮き彫りになった。
ITmedia エンタープライズと調査会社のアイ・ティー・アール(ITR)は、9月24日から10月13日にかけて、「パンデミック対策」に関する読者アンケートを実施した。調査結果からは、新型インフルエンザを対象としたパンデミック対策には約7割の企業が取り組んでいるが、IT関連の製品やサービスを使って業務継続性を確保するといった取り組みはまだ進んでいないことが明らかになった。予期せぬ危機に備えて、企業はどのような対策を講じているのかを、パンデミック対策の実施状況から明らかにしたい。
調査概要
新型インフルエンザが猛威を振るう中、企業ではどれだけの感染者が出たのか、またパンデミック対策をどう講じているかについて聞いたところ、感染者が出たのは全企業の50.4%と半数以上を占めた。その内「パンデミック対策のマニュアルに沿った対応を実施した」のは37.7%だった。企業規模別に見ると、規模が大きい企業ほど対策マニュアルをきちんと策定し、パンデミック発生時には迅速に対応していることが見て取れる。
ここでのパンデミック対策マニュアルとは、消毒液の設置や手洗い・うがいの奨励、マスク着用などを記述したもので、その多くは人事・総務部門が策定している。ここでマニュアルの周知範囲を聞いたところ、「全従業員に周知されている」という回答が約95%を占めた。また5000人を超える企業の34.4%は、前従業員や主要取引先にまで対策を周知していた。
パンデミックが事業にもたらす損失はどれくらいなのか。パンデミックに伴う欠勤者がもたらす事業の機会損失コストの推定額を調査したところ、パンデミックによる「ビジネス機会の損失コスト」がどの程度であるかを把握していない企業が40.4%に上ることが明らかになった。規模の大きい企業ほど損失コストを算出できておらず、5001人以上の企業では56.4%、1000〜5000人では45.5%が「分からない」と答えている。大規模の企業では1つの業務を複数の部門で行うほか、似たプロジェクトも混在しているため、コスト算出が難しいのが実情である。
業種別に見ると、「サービス・その他」の業界での損失コストの高さが際立っている。サービス業では、従業員の集団感染による業務停止が大きな損失となるからだ。一方、パンデミックに関連する製品やサービスを販売しているIT関連の製造/販売業では、VPN(仮想プライベートネットワーク)やシンクライアント端末などを備え、社外からでも仕事ができる環境を用意していることもあり、ビジネス機会の損失コストもほかの業種に比べて低い。
IT関連のサービスや製品を活用して業務継続性を確保しているかを聞いたところ、「ITソリューションの新規導入および適用部門の拡大を実施/予算化している」企業は全体の17.7%、「新規導入や適用部門の拡大を検討中である」とした企業は17.1%であった。一方、「IT施策はない」と答えた企業は33.1%だった。IT専門部門のリソースを確保しにくい小規模の企業ほどパンデミック対策の導入が進んでいないが、5001人以上の大企業でも38.5%が「IT施策はない」と答えている。パンデミック関連のITソリューションはまだ普及していないことが明らかになった。
パンデミック発生時に重要とされるサービスやソリューションを聞いたところ、「電子メール、グループウェア、企業ポータルへの最低限のリモートアクセス」が35.9%で最も多かった。「VPNの構築」「従業員の安否確認ソリューション」がともに33.1%となり、この3つの項目に対する企業の期待が高いことが分かった。「デスクトップ仮想化ソリューション」を挙げる企業も22.1%あり、社外からも仕事ができる体制の整備を視野に入れた企業が増えている。
パンデミック対策のIT製品/サービスの導入に当たり、障壁となっている点も聞いた。その結果、「パンデミック時のビジネス機会損失コストをどの程度削減できるか不明確」「IT予算が限られており、パンデミック対策の予算として計上されていない」とする回答が4割強に上った。パンデミックが発生したときに事業がどれだけの損害を被るかを把握できておらず、IT製品やサービスでビジネス機会損失コストをどれだけ減らせるかが不明確であることも、この結果に影響している。自由回答からは、IT予算が既に決まっているため、IT部門がパンデミック対策ソリューションの導入を経営層に訴えかけられていない現状も浮き彫りになった。
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明治学院大学 経済学部准教授