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» 2010年02月17日 08時00分 公開

「ゼロベースでマーケティング戦略を作り上げる」 日本コカ・コーラ 江端浩人氏石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(2/3 ページ)

[石黒不二代(ネットイヤーグループ),ITmedia]

コカ・コーラのインタラクティブ・マーケティングの始まり

 江端さん個人については、日本コカ・コーラの入社前は、デジプリというベンチャー企業を創業し9年間インターネット業界に刺激を与え続けました。コカ・コーラからオファーがあったときには、同社のインタラクティブ・マーケティングの戦略や組織作りを、ゼロベースで考えてくれという話だったので、ベンチャー経営と同じ感覚を持ったそうです。違いといえば、コカ・コーラにはベンチャーにはなかったお金とブランドがあることで、「面白い!」と思ったそうです。

 江端さんがデジプリを経営していた10年前は、インターネットの普及や利用状況が現在とは大きく異なり、会員数50万規模のサイトを運営していた人は多くありませんでした。この時の経験が、成長著しい日本コカ・コーラの会員制サイト「コカ・コーラ パーク」のコンセプトを作るのに大きく役立ったとのことです。インフラ整備やデータベース運営もかつての経験が生きています。

 そうは言っても、日本コカ・コーラに入社した最初の1年半は、建設に例えると基礎工事のような作業を行う時期で、いわば、地ならしやくいを打ち込んでいくような作業ばかりでした。具体的には、今までバラバラだったサイトの運営を集約したり、データベースを一元化したりなどです。実際に、現在もこの段階にある企業はたくさんありますが、江端さんがしたように、基礎工事なしでは素晴らしい建築物は建ちません。同社は2007年6月に、「コカ・コーラ パーク」の立ち上げに合わせて、データベースの管理システムとホスティングも移行しました。

 Web制作に関しても、入社前はブランドサイトごとに、ブランドエージェンシーがつき、ホスティングもまちまちでした。現在では、構築と運用を一元化し、ブランドのエージェンシーとクリエイティブを協議しながら、最終的にはインタラクティブチームとインタラクティブエージェンシーが責任を持ってやっています。その結果、ここ3〜4年間は、ユーザーは増え続けているのに、投資費用はそれほど増えていないという状況が続いています。共通化することでコスト削減が実施できているのです。

 「コカ・コーラ パーク」は、それまで日本コカ・コーラが運営していた「コカ・コーラネット」や「コカコーラモバイル」、自動販売機向けサービスの「Cモード」などの一元化といえます。これに加え、スピードの速い飲料ビジネスならではの、出ては消えていく期間限定のキャンペーンサイトも一元化しました。これは不動産の展示会にあるスクラップビルドモデルと同じで、まず基礎工事で大きなものをつくってその上に積み上げるようなものです。

 現在はモバイルにも力を入れていますが、これも開発プラットフォームなどを共通化すれば1つ1つのコンテンツ制作は安くなるはずです。

インタラクティブ・マーケティングが目指すもの

 インタラクティブ・マーケティングで実現したいことは、顧客のライフタイムバリューの最大化です。個々のブランドでCRM(顧客情報管理)はやっているものの、クロスブランドの事例は今までありませんでした。日本コカ・コーラが展開する各ブランドでは、顧客ターゲットが異なります。例えば、「コカ・コーラ」は若いティーンをターゲットの中心としている一方で、缶コーヒー「ジョージア」は主に20〜30代以降の男性、「爽健美茶」は20〜30代の女性に人気があります。年代や性別によって異なるブランドが人気でも、とある消費者が日常生活を送る中で、さまざまな飲料ブランドから、最終的にコカ・コーラ製品を選んでもらえばいいのです。

 ブランドの壁を越えたコカ・コーラ製品とお客様とのコミュニケーションのポータルとして「コカ・コーラ パーク」があるわけです。しかしその導入を行う前には、社内にも強硬な反対がありました。ブランドマーケティング担当者からは「なぜうちのお客をほかのブランドに連れて行くんだ」というような意見も出てきたため、結局、社内合意を取り付けるのが一番大変だったのです。今はお互いにプラスになるというのを何となく分かってもらえたかな、という段階まできたようです。

 これまでは全体最適のために必要なのだと説得してきましたが、認知経路やブランドの好意度を探る調査結果などにおいても「コカ・コーラ パーク」の影響が出てきており、ようやく納得感が出てきたのです。

 「コカ・コーラ パーク」は、本田技研工業(ホンダ)の渡辺春樹さんがおっしゃっているOwned Media(自社で運営していくメディア)とSocial Media(ブログやSNSなど、ユーザー同士でつながりを作れるメディア)の組み合わせから、Paid Media(いわゆる広告料金を徴収して、企業などから出稿を受けるメディア)にもなってきたという特徴があります。広告販売も順調に推移しているので、広告で収益を上げようというのではないものの、期せずしてマーケティングのエコシステムが働いています。

 コカ・コーラはグローバルカンパニーなので、各国の成功事例をシェアできるというメリットもあるようです。「コカ・コーラ パーク」が参考にしたのは、中国と韓国です。中国で展開していたwww.icoke.cnでは、コカ・コーラ製品についているQRコードを集めて抽選する仕組みがありますが、マルチブランドのプロモーション活動として展開したのは日本が初めてでした。

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