春うららなこの季節になると、研修医としてスタートを切った新人時代を思い出します。研修初日に経験した忘れ難い出来事のことも…。
つい先日の午前中、某球技のメディカルチェックがありました。内科の診察の前に、選手たちに問診票を記入してもらうのですが、ある選手は、「疲労がたまっている」の項にチェックがありました。
「どうして疲労がたまっているの?」
「大学を卒業してこの春、社会人チームに入りました。この一週間は新入社員の研修やオリエンテーションなどがみっちり入っていたし、新しい仕事も覚えなければならないので、ゆっくり休みが取れないのです」
社会人としてオリンピックを目指す選手たちは、仕事もスポーツも両立させなければいけません。この経済状況の中、雇ってくれた会社への恩義もある。スポーツを続けながら、社会人としても一人前になろうとする選手たちを見ていると、なんだかちょっと嬉しくなり、応援したくなります。
わたしも24年前の春、新人研修医としてドクター生活をスタートさせました。早く一人前の医者なろうと一生懸命だったあのころを昨日のことのように思い出します。
地元の大学を卒業して初めて東京に出てきたわたしは、東京都渋谷区にある日赤医療センターを研修先として選びました。あの時代にはあまり一般的ではなかったローテート研修(2年間でさまざまな科を回る研修)があったことが大きな理由ですが、大学を卒業するまで長野を離れたことがなかったので「一度は大都会に出てみたい」という、医学とは関係のない、ちょっとふしだらな気持ちもあって都心の病院を選びました。
研修医生活は8階西病棟から始まりました。消化器内科、血液内科、アレルギー内科の混合病棟で、多くの患者さんが朝晩点滴を行っていました。点滴の中身を詰めて、輸液セットにつなげて、針を刺すのも研修医の仕事でした。毎朝回診を終え、9時過ぎから看護師さんと2人で「点滴行脚の旅」が始まります。朝の点滴だけで50人以上ですから、終わるのに2時間近くかかります。3カ月間続いたこの点滴行脚がわたしの医者としての原点でした。
注射というのは、患者さんにとって医者から最もたくさん受ける医療行為です。高度な医療技術も大事ですが、「採血を失敗しない」「点滴をいつも一発で入れる」ことで、患者さんの信頼を勝ち得た経験がある医者はとても多いはずです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授