「プラットフォームの整備は今からでも遅くない」――ネットイヤーグループ、石黒氏ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

日本企業が再び活力を取り戻すためには何が必要なのか。ネットイヤーグループの石黒氏によると、そこで求められているのが、企業と消費者とをダイレクトに結ぶプラットフォームなのだという。では、その整備をいかに進めればよいのか?

» 2011年03月15日 07時00分 公開
[岡崎勝己,ITmedia]

急成長を遂げる日本企業が少ない理由

 サン・マイクロシステムズのCTO、グレッグ・パパドポラス氏は2006年11月に自身のブログで次のように予言した。いわく、「世界に“コンピュータ”は5つあれば足りる(THE WORLD NEEDS ONLY FIVE COMPUTERS)」のだと。その内容を端的に説明すれば、世界のコンピュータはグリッドコンピューティングによるクラウド化が進み、GoogleやYahoo!、Amazon.com、eBay、Microsoft、Salesforce.comなどの企業体が運営する巨大なクラウドコンピュータに集約されていくという。この予言は、それが現実になったことで有名になったわけだが、興味深いのはそれらの企業はすべて米国の西海岸に位置している点。対して、日本では高度経済成長期を終えた後に、目覚しい成長を遂げた企業は残念ながら数えるほどしかないのが実情である。

ネットイヤーグループの石黒不二代社長

 確かに、IT産業と他の産業では経営環境に違いはあろう。だが、かつての日本には、さまざまな業界で世界でもたぐい稀な競争力を備えた企業がいくつも存在していたことから、成長の土壌があったことは容易に推測できる。にもかかわらず、日本で第2、第3のソニーや松下が期待されたほど誕生し得なかったのはなぜなのか。ネットイヤーグループで代表取締役社長兼CEOを務める石黒不二代氏は、2月24日に開催された「第19回ITmediaエグゼクティブセミナー」の講演の冒頭で、その疑問について自らの見解を次のように述べた。

 「GoogleやAmazon.comなどに共通して言えるのが、消費者と企業とを結ぶ情報プラットフォームを構築することに、成功しているということ。対して日本企業は、情報プラットフォームの整備にそれらの企業ほど力を入れてこなかった。その結果、消費者の嗜好の多様化に機敏に対応できなかったことが成長の足かせとなったのだ」

この10年で情報の流通量は532倍に

 日本企業が輝いていた70〜80年代は消費者の嗜好はほぼ画一化しており、それゆえ、大量の製品を製造する大型製造装置を持っている企業が成長した。輸送手段も大量輸送の飛行機や鉄道が主流だった。コミュニケーションにおいては、企業が大量の消費者に一度にメッセージを届けるうえで、テレビや新聞、雑誌などのマス媒体が極めて効果的な手段であった。だが、インターネットの登場により状況は一変したと石黒氏。事実、ホームページやブログの登場によって情報流通量は96年から06年までの間に532倍に、また消費者の情報の消費量も65倍に急増し、従来からの宣伝活動ではメッセージを消費者に届けることが困難になっているのが実情なのだという。

 「従来からあった口コミも、ネットにより消費者間で容易に情報をやりとりできるようになりその効果が増幅している。生産者に好みを届ける消費者が増えているので、自然と多種多様な製品がつくられるようになりライフサイクルも短くなる。大量生産装置は以前よりパワフルではない。こうした変化を乗り越え、新たな成長軌道を描くために、消費者と双方向でコミュニケーションを行い、消費者の要求をすぐに製品開発やサービスに反映させるための装置、すなわち情報プラットフォームの整備が急務となっているのだ」(石黒氏)

 しかしながら、今さら手遅れではないのか――石黒氏によると、こう考える企業は実のところ少なくないようだ。だが、「プラットフォームの整備は今から行っても決して遅くはない」(石黒氏)。

インターネット元年に匹敵する変化が到来

 実際に、国内でプラットフォームの整備に成功した企業の1つが楽天だが、同社のECサイトは扱いアイテムがファッションから家電、バイク用品まで多岐にわたるため、目的の商品を見つけにくい面があるのも否めない。そこに目をつけたファッション専門通販サイトのZOZOTOWNは、逆にアイテムをブランド商品に絞り込むという逆転の発想と、メルマガなどを活用した顧客の囲い込み策によって、2004年12月の誕生からわずか6年で100億を超える売上を達成している。一見磐石に見えても、付け入る隙はまだあるというわけだ。

 加えて、「今年はインターネット元年に匹敵するほど大きな変化がコミュニケーション・インフラにもたらされる」と石黒氏。消費者の情報の取得方法がメールなどに頼った受動的な姿勢から、ソーシャルメディアやスマートフォンを活用した能動的な姿勢に転換する兆しが見えつつあるというのがその理由である。大きな変化は、企業にとって大きなチャンスであることは改めて説明するまでもないだろう。

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