「非常時にしか役に立たない上に費用がかかる」といった評価をされがちだったBCP(事業継続計画)。しかし、上手な導入・活用で日頃から使えるBCPを実現している企業もある。どのような方法なら役に立つのか。
「“BCPのための”という仕組みでは良くない。すぐに陳腐化してしまう」と語るのは、大和総研 専務取締役の鈴木孝一氏 。鈴木氏は7月15日に開催された「ITmedia Executive Directions 2011 危機の時代、今こそ事業継続性の再検討を」において、「使えるBCPの実現に向けて」と題した基調講演で、自らが2010年3月までの期間に手掛けてきた大和証券のシステムについて、「使えるBCP」というキーワードで紹介した。
証券会社のシステムは、日本経済の根幹を支える金融系インフラとして、監督官庁から厳しい監査を受ける。その監査は平常時の安定運用性だけでなく、災害時の対策も対象だ。当然、大和証券もBCPへの取り組みは欠かせないものとなっており、「ビジネスを止めないという考えから、単にシステムだけでなく事務の継続性も重視してBCPに取り組んできた」と鈴木氏は言う。
例えば、システム的には東京のデータセンターと大阪のデータセンターをホストtoホストで連携させ、サイト間バックアップ構成を作り上げていた。また、事務の継続性については、端末が使えなくなった場合に備えて被災した時点での残高リストを各営業店の店頭に配布できるよう、印刷や配送をアウトソースする手筈を整えていた。
しかしシステムの機能強化が進むと、バックアップ側の大阪データセンターの強化が追いつかず、次第にカバレッジが狭くなりBCPの有効性に疑問が生じてきた。バックアップシステムは常に利用しているものではなく、完全に平常通りの機能・性能を要求されるとは限らないが、それでも乖離が大きくなるのは好ましくない。
「でも誰も声を上げない。どうしていいやら皆目見当がつかないから」(鈴木氏)
このような状況にあったBCPが見直されたのは、仮想化など新たに登場してきた技術を用いてシステムを刷新することになった2000年頃のことだった。新たに練られたシステム構想の中に、BCPが含まれている。鈴木氏が列挙したのは、以下の4点。
「それまで、事務作業は紙を基本として進められ、システムも紙を前提として作られていた。これを抜本的に見直す。ペーパーレスが進めば、デジタル化されたデータが失われたら元も子もない。そのためバックアップは、データバックアップから順次構築していく必要がある。また、PCについても、EUC(エンドユーザコンピューティング)が重要性を増すなかで災害時には脆弱な存在であり、こちらもシンクライアント化でデータを守る。そして災害時、ベンダーに連絡がつくかどうかといった問題もあるので、システムインフラは統合・スリム化を推進、自らの身は自らが守る」(鈴木氏)
こうした方針に沿って、大和証券のIT環境は段階的に刷新されていった。その変遷過程を列挙すると、BCPに対応する取り組みが数多く含まれている。例えば2005年に仮想サーバが稼働を開始、2007年にはシンクライアント、どこでもオフィスシステムが稼働、2008年には大阪のデータセンターで災害時電子帳票システム稼働開始、といった具合だ。
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明治学院大学 経済学部准教授