「BCPは“使える”内容であることが望ましい」――大和総研、鈴木孝一専務ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

「非常時にしか役に立たない上に費用がかかる」といった評価をされがちだったBCP(事業継続計画)。しかし、上手な導入・活用で日頃から使えるBCPを実現している企業もある。どのような方法なら役に立つのか。

» 2011年08月31日 07時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]

 「“BCPのための”という仕組みでは良くない。すぐに陳腐化してしまう」と語るのは、大和総研 専務取締役の鈴木孝一氏 。鈴木氏は7月15日に開催された「ITmedia Executive Directions 2011 危機の時代、今こそ事業継続性の再検討を」において、「使えるBCPの実現に向けて」と題した基調講演で、自らが2010年3月までの期間に手掛けてきた大和証券のシステムについて、「使えるBCP」というキーワードで紹介した。

金融インフラの責任として用意されたものの、実際には“稼働実績がなかった”BCP

大和総研の鈴木孝一専務

 証券会社のシステムは、日本経済の根幹を支える金融系インフラとして、監督官庁から厳しい監査を受ける。その監査は平常時の安定運用性だけでなく、災害時の対策も対象だ。当然、大和証券もBCPへの取り組みは欠かせないものとなっており、「ビジネスを止めないという考えから、単にシステムだけでなく事務の継続性も重視してBCPに取り組んできた」と鈴木氏は言う。

 例えば、システム的には東京のデータセンターと大阪のデータセンターをホストtoホストで連携させ、サイト間バックアップ構成を作り上げていた。また、事務の継続性については、端末が使えなくなった場合に備えて被災した時点での残高リストを各営業店の店頭に配布できるよう、印刷や配送をアウトソースする手筈を整えていた。

 しかしシステムの機能強化が進むと、バックアップ側の大阪データセンターの強化が追いつかず、次第にカバレッジが狭くなりBCPの有効性に疑問が生じてきた。バックアップシステムは常に利用しているものではなく、完全に平常通りの機能・性能を要求されるとは限らないが、それでも乖離が大きくなるのは好ましくない。

 「でも誰も声を上げない。どうしていいやら皆目見当がつかないから」(鈴木氏)

 このような状況にあったBCPが見直されたのは、仮想化など新たに登場してきた技術を用いてシステムを刷新することになった2000年頃のことだった。新たに練られたシステム構想の中に、BCPが含まれている。鈴木氏が列挙したのは、以下の4点。

  • ペーパーレス化
  • バックアップセンター構築
  • シンクライアント化
  • システムインフラ統合、スリム化

 「それまで、事務作業は紙を基本として進められ、システムも紙を前提として作られていた。これを抜本的に見直す。ペーパーレスが進めば、デジタル化されたデータが失われたら元も子もない。そのためバックアップは、データバックアップから順次構築していく必要がある。また、PCについても、EUC(エンドユーザコンピューティング)が重要性を増すなかで災害時には脆弱な存在であり、こちらもシンクライアント化でデータを守る。そして災害時、ベンダーに連絡がつくかどうかといった問題もあるので、システムインフラは統合・スリム化を推進、自らの身は自らが守る」(鈴木氏)

 こうした方針に沿って、大和証券のIT環境は段階的に刷新されていった。その変遷過程を列挙すると、BCPに対応する取り組みが数多く含まれている。例えば2005年に仮想サーバが稼働を開始、2007年にはシンクライアント、どこでもオフィスシステムが稼働、2008年には大阪のデータセンターで災害時電子帳票システム稼働開始、といった具合だ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆