メンバーが自律的に成長し続ける組織を望んでいるマネジャーは多いだろう。手取り足取り指示を出すのではなく自ら考える挑戦機会を提供し、学ぶ。成長のサイクルを回し続ける方法とは。
プレイングマネジャーという言葉が多く聞かれる時代。成果を求められながら、メンバーの育成も必要な中で、マネジャーにかかる負荷は大きい。今回から全6回で、メンバーの育成、すなわちメンバーが自律的に成長し続ける組織とはどのような特徴があるのかということをテーマに、「職場での育成」について連載する。
以前、ある総合商社で育成責任を持つ人たちに「現状の育成状況を点数で評価をしたら何点か?」と問うと大半が100点満点中60点前後と回答をした。高いスコアをつける人がいなかった。仕事がバリバリできる人たちなのだが、自信を持ってうまく育成できていると回答する人がいないのが現状なのだ。
また、別の成長ベンチャー企業では、3年連続若手社員の育成を担当したマネジャーがいた。2年連続で若手と良い関係を築き、自信を持って臨んだ3年目。しかし、3年目にして初めてうまくいかない。そして、苦しんでいた。過去に成功しているからといって、常に成功するとは限らない。
職場での育成とは何なのか? 育成という言葉はよく聞くが、いったい何をすべきなのか。
さまざまな企業の担当者と会う中で、「職場での育成」に関して以下のような違和感を覚えることがある。
何をすれば良いかが意外と曖昧になっている
「職場で育成を」と言われると、皆さんはどのような行動を想像するだろうか。先日、マネジャー向けの育成プログラムで、「育成とは何をしますか」と問うと、皆が一瞬返答に困った表情をしていたのが印象的である。何となく分かっているつもりだが、具体的なことを問われると曖昧なのである。
また、先日人事の担当者と会うと、「OJT制度を進めようと思っている。そのため育成担当者をつける、育成計画書を書いてもらうようにする」と言っていて、「では、具体的に育成者は何をするのか?」と聞くと、はっきりしておらず、「担当者に任せている」という返答だった。「育成」という言葉が誰もが知っている言葉だからこそ、何となく伝わって、曖昧に進んでいることが多いのが実態である。
しかし、曖昧な状態で進めるからこそ、育成する立場の人は、自分はどの程度育成しているのか、順調なのかが分からない。そして達成感も得られず、ノウハウも蓄積されない。育成に対してモチベーションが湧かず、及び腰になったりもする。このように、何年たっても職場での育成が大変な部署やマネジャーを多く見てきた。
変化の時代、グローバル化などと言われているが、育成自体はあまり変わっていない
新人向けプログラムやリーダー向けプログラムの場合は、グローバル化への対応、より外部環境を捉えた行動をうながす、というような変化への対応が年々人事や経営から求められる。しかし、メンバーの「育成」というと、それほど大きく変わっていない。何10年も同じOJT制度が続いているという会社もある。外部環境が変化し、若者の志向性も変わっていく中で、職場での育成も過去から変化する必要がある。
皆さんは「最近の外部環境や若手の特性を踏まえて、最近ならではの育成は?」と問われると何と答えるだろうか?
「職場での育成」について語る際、人によって前提が違い食い違うことがよくある。その原因は「職場での育成」といっても、2種類あるからだ。まずはその前提を合わせるためにも、2つをまとめてみたい。
組織への順応をうながす育成
会社の風土を理解し、業務の進め方を覚え、戦力として貢献できるようになることを支援するものである。「組織社会化」(個人が、ある組織の中に入り徐々にその組織に適応していくということ)という言葉を使われることも多い。入社や異動で新たな部署に配属されると必要なことであり、短期的に戦力化するために昔から行われてきている育成である。
自律的に考え、成長できる人材に育てる育成
変化が激しい時代の中、マニュアルに沿った行動をするだけでなく、自ら考えて行動するような自律型人材がより求められている。そのような人材だからこそ、手取り足取り指示を出すだけでは育たない。自ら考える必要があるような新たな挑戦機会を提供し、その経験を振り返り、学びとして自らの持論を作る。こういったサイクルを回すことで、今後も自分で成長でき変化にも対応できる力を身につける。昨今、より求められている育成なのである。
両方の育成は共に重要であるが、皆さんの職場はどうだろうか。状況によって目指す度合いは違うが、それぞれを意識して行動しているのかを考えてほしい。前者は比較的実施できているかどうかが分かりやすいが、後者の「自律的に考え、成長できる人材に育てる育成」は、実施できているかが分かりにくい。なぜならば、「最近の若手は主体的ではない」というように、相手に問題があるという言い方ができるからである。
このような声を聞く一方で、主体的ではない若手が、部署を異動すると急に主体的になったというような話もよく聞く。先日弊社で100部署ほどの職場の育成状況を調査・分析をしたところ、同じような仕事内容であったとしても、メンバーが未来を期待し、自律的な人に育っている調査結果が出た部署と、そうでない部署とに明確に分かれていた。決して本人の問題だけではない。具体的な職場育成が、人の行動を変えるきっかけを創り出すのである。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授