「一期一会」の接客の美学をベースに、お客さまの琴線に触れる接客。 それを実現させている組織の在り方、岡本社長の想いとは?気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(1/2 ページ)

「お客さまに喜んでいただく」ことを目指し、おもてなしで選ばれるゴルフ場を実現した組織の在り方とは。そして接客に対する独自の美学に迫る。

» 2014年08月20日 08時00分 公開
[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:牧田真富果,ITmedia]

 1979年開業以来、「お客さまに喜んでいただく」ことを目指している千葉夷隅ゴルフクラブ。13年連続でゴルフ専門誌「週刊パーゴルフ」のベストコースランキング・接客部門全国1位を獲得するなど、その接客の質の高さはお墨付きだ。都心から離れた立地の中、おもてなしで選ばれるゴルフ場を実現した組織の在り方、岡本豊社長の接客に対する独自の美学に迫った。

オープン当時から目指しているのは、お客さまに喜んでもらう質の高い接客

中土井:千葉夷隅ゴルフクラブは、いつどのような経緯でオープンしたのですか?

岡本豊氏

岡本:1979年8月にオープンしました。今年の8月で35周年になります。タクシー・ハイヤー大手、日本交通のレジャー事業の子会社として、ゴルフ場をオープンさせました。創業メンバーである支配人、副支配人、コースキーパー、食堂の料理長などの幹部全員が30歳前後の同年代でした。ゴルフ場経営の経験もなく、分からないことばかりのとても若いメンバーでした。

 ここは千葉県の中でも都心から比較的遠い場所にあり、交通の便が悪いので2時間30分ほどかかってしまいます。そんな辺ぴな場所にあるゴルフクラブにお客さまに来てもらうにはどうすればいいか、当時メンバーで話し合いを重ねました。同じようなコース、同じ料金であれば当然近いゴルフ場に行くでしょう。お客さまを引きつけるには差別化が必要になります。そこで、われわれのゴルフ場では、キャディーさんやフロントやレストランのスタッフなどの接客で差別化をしようと考えました。お客さまに喜んでいただく接客をすることで、「また来たい」と思ってもらえるゴルフ場を目指しました。

接客の美学を形づくる原体験は、ディズニーランドでの感動体験

中土井:その頃はバブル絶頂期で、そんな時代背景でも、目先の利益ではなく、お客さまに喜んでもらうことを一番に考えることができたのはなぜですか?

岡本:お客さまに喜びを提供できれば、利益は後からついてくるものだという感覚を最初から持っていました。

 私は大学を卒業してから渡米し、2年間ほど米国のロサンゼルスにいました。滞在中ディズニーランドの存在を知り、実際に足を運んだ経験が今の「お客さまに喜んでもらいたい」という価値観の形成に影響しているかもしれません。ディズニーランドでは、家族連れ、カップル、友達同士、そこで働く人など、すべての人が本当に楽しそうに過ごしていることに衝撃を受けました。その体験がきっかけで、将来こんなふうに人に喜んでもらえる仕事をしたいと考えるようになりました。

 その後、帰国して日本交通へ入社し、レジャー関係の仕事に携わりました。沖縄の万座ビーチなどで経験を積んだ後、今のゴルフ場の事業に創業メンバーとして召集されました。

お客さま情報共有システムによって、接客の質を標準化

中土井:1988年には日本能率協会の「JMAサービス優秀賞・特別賞」を、1997年には日本生産性本部の「日本経営品質賞」を受賞しています。さらに、2000年から13年連続でゴルフ専門誌「週刊パーゴルフ」のベストコースランキング・接客部門全国1位を獲得しています。ここまで質の高い接客を実現している理由は何なのでしょうか?

岡本:自分たちで改善策を考えて、行動しようという全体の雰囲気をつくり出せているからだと思います。オープン当初の約2年間は、トップダウンで接客の教育をしていましたが、それではどうしても「やらされている感」が伝わってしまいます。「お客さまに喜んでもらいたい」という気持ちから生まれるその人の純粋な行動だからこそ、お客さまの心の琴線に触れることができます。自分で考えて動いたことで、お客さまに喜んでいただけるとやはりすごくうれしいものです。そのことの価値を社員一人ひとりが実感するようになると、組織の雰囲気は変わります。

 どんなに自分で考えて接客をしたとしても、キャリアの差があればその質も左右されてしまいます。そこで、顧客カードをデータベース化したシステムを2000年から導入しました。これがお客さまの満足度を高めるという点で大きな役割を果たしています。それまでは、お客さまの情報はキャディー個人で持っており、標準化して全員で共有することはできていませんでした。それらの情報をまとめて、社員全員がお客さまの好みを見られるようにしました。

 例えば、アプローチは何番を使うのか、ドライバーの飛距離はどれくらいか、クラブを渡すときはカバーを付けたままか外した方がいいのか、ビールはどの銘柄を好むのかなど細かく記されています。このシステムを導入してから、接客の質を標準化することができました。ベテランのキャディーだけが質の高い接客を提供できるのではなく、新人でもある程度の質を保つことができるようになりました。

 幹部がするべきことはこのような環境作りです。現場で活躍する人たちを支えることが幹部の役割だと考えています。オープンしたときから今まで継続して持ち続けている考え方です。

伝統として受け継がれる、お客様への心遣い

中土井:具体的にどのような接客がお客さまに喜ばれましたか?

岡本:以前、心臓病をお持ちの方が来場し、食事をしたときに、薬を何かの拍子でテーブルの下へ落としてしまい、そのままレストランを後にしました。レストランのスタッフが薬を見つけ、その方のスタート時間を調べ、届けに行ったそうです。薬を届けに行くというのは想定の範囲内の行動ですが、そのスタッフは薬と一緒に白湯を持っていきました。その心遣いにお客さまはとても喜んでくれたというエピソードです。

 白湯を添えるというほんのささいなことかもしれませんが、お客さまの心の琴線に響くサービスとはそのようなものです。相手への心遣いを一人ひとりが持っているからこそ、ちょっとした状態の変化にも気づくことができます。そういった姿勢や考え方がリスペクトされ、伝統として受け継がれています。

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