連載
» 2014年09月22日 08時00分 公開

飛躍:中国医薬品市場の鍵を握るマーケットアクセス (2/3)

[諏訪 雄栄、閭 琳(ローランド・ベルガー),ITmedia]

2、「営業・マーケティング」から「マーケットアクセス」へ

 中国の医療品市場での勝ち残りは、グローバルで戦う製薬メーカーにとっては必須命題だ。そのため、現在では、多数のローカルメーカーとグローバルメーカーによる熾烈な競争が行われている。日米欧ではある程度メーカー間が棲み分けてきたことを考えれば、中国はおそらく世界一過酷な競争が行われている市場である。概して新興国は、ローカルメーカーの育成と生き残りを支援するよう地場産業の保護、外資規制の強化を行う傾向が強く、中国も例外ではない。それでは、外資系製薬メーカーがこの玉石混交の乱戦を勝ち抜くには何が必要なのか。ローランド・ベルガーは、「開発」「マーケットアクセス」「営業・マーケティング」それぞれの“現地化” が極めて重要だと認識しており、中でも「マーケットアクセス」が今後の鍵になると考えている。

 「開発」の現地化は、既に外資系製薬メーカーの間でも一般的になってきた。外資系製薬メーカー上位10 社が中国に設けているR&Dセンターの数は、2005年の5 つから、2012年には30 にまで急増している。開発の現地化の最大のメリットは、中国政府を味方につけることで、医薬品規制の優遇措置が受けられる点にある。例えば、上海をはじめとする各地方政府は、「医薬工業第十二次五カ年計画」に従い、外資系製薬メーカーのR&Dセンターの開設を促進する施策を打ち出している。このような施策の恩恵にあずかって、関連審査期間の短縮や入札面での優遇措置を受けている企業は数多く、このような中国政府による積極的な誘致姿勢は今後も続くと見られている。実際に、ある外資系メーカーでは、中国食品薬品監督局が先進的な抗がん剤の導入に積極的な姿勢を見せていたことから、中国での国内治験を行い、通常は5年かかる新薬の販売許可を3年半で取得した。

 「営業・マーケティング」は、近年大きく事業モデルが変化しつつある。中国においても医薬品流通に関する法整備が大きく進んだためだ。中国ではこれまで、不法収賄・汚職官僚など「清濁を併せ飲む」姿勢での営業をMRに担わせざるを得なかった面があった。結果的に、製薬メーカーの営業モデルも「物量」や「力技」を主体にしたモデルが中心であった。しかし、2012年に国務院(日本では内閣官房に相当) が医薬品流通から収賄等の徹底浄化を行う方針を打ち出すと、その翌年には衛生局(厚生労働省に相当) から医薬品販売における収賄を取り締まる条例が打ち出されるなど、急速に環境が変化している。

 「物量」や「力技」からの脱皮を迫られた製薬メーカーは、中国各地域のニーズにあわせて適切な営業を行っていくモデルへとシフトしつつある。中国と一口に言っても、沿岸部と内陸部では所得や医療インフラ、ひいては医療制度に至るまで各省によって多種多様である。従来、外資系製薬メーカーは、上海や北京など沿岸部の大都市のニーズにフォーカスし、内陸部に対してはあまり注意を払わず、「力技」で対応してきた。しかし、従来の事業モデルが機能しなくなった現在では、より各省のニーズや保険制度に根ざした戦略を立てていくことが求められている。こうした変化に迅速に対応した製薬メーカーの中には、既に大都市フォーカスから脱皮し、地域別のニーズを汲み取ることで競争優位を築き、大都市に匹敵する事業性を実現できているケースもある。中でも鍵になっているのが地域別のマーケットアクセス戦略だ。実は、中国では、先進国同様、または先進国以上に「営業・マーケティング」から「マーケットアクセス」への重要機能のシフトが進みつつある。

 中国における医薬品関連の法手続には、中央当局と地方各省の保険当局の二つをおさえる必要がある。例えば、保険償還を受けるには両方から認可を得る必要がある。従来は、中央当局の管理が強く、中央とのコネクションを主体に進める必要があったが、近年は地方政府へ裁量権がシフトする傾向にある。2008年に交付された「123号通達」(「省レベル以下の食品薬品監督管理体制に関する問題の調整通達」) では、地方政府による医薬品の裁定権限が大幅拡大された。例えば、中国国内で当局から保険償還を受けられる医薬品はEDL (Essential DrugList) にて規定されているが、医薬品生産の最大拠点である山東省や、医薬品の消費が旺盛な上海などでは、EDL以外にも還付を受けられる医薬品(non-EDL)が独自に設定されている。(図C:参照)

地域別医薬品権限の特徴

 変化に敏い外資系製薬メーカーは、こうした動きに反応し、地方各省に対する交渉にいち早く動き出している。上図に、地方政府との関係強化によって、売上拡大に成功した事例をあげる。(図D:参照)いずれの事例でも、各地方のニーズ、法制度を理解し、それに適うマーケットアクセスモデルを構築したことが、他社に先駆けてnon-EDLリストの枠を獲得できた成功要因と言えよう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

「ITmedia エグゼクティブ」新規入会キャンペーン実施中

「ITmedia エグゼクティブ」新規入会キャンペーンを実施中。ご入会いただいた方の中から抽選でお2人に、Appleの「AirPods Pro」もしくはソニーの「WF-1000XM3」のいずれかをプレゼント。この機会にぜひご入会ください!
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆