こうした事業モデルのシフトに日系製薬メーカーは対応できているだろうか。ローランド・ベルガーが日系製薬メーカーの中国事業担当者と意見交換を行ったところ、各社ともこうした変化への対応の重要性を認識しながらも、本社レベルでは未だ中国における事業展開リスクを拭いきれないためか、まだまだ及び腰となっているとの声が複数聞かれた。しかし、このままでは欧米勢やローカル勢に遅れを取る一方である。事業モデルの変化を加速させるためには何が必要なのだろうか。
最も重要なのは、精度の高い市場情報を継続的に手に入れるしくみをつくることである。中国の急速な成長は非常に魅力的なものの、反面、日本や欧米のような正確かつ信頼できる情報源は極めて限定的だ。例えば、疾患領域別の患者数や医薬品市場規模について、信頼できる第三者データを中国国内で見つけることは非常に難しい。パブリックな情報が限られる中では、現地代理店を活用するなど、ローカルに網をめぐらせ、現場の生の情報を積み上げていくことで実態を把握するなどのしくみづくりが重要だ。日系メーカーでは、こうした視点で現地パートナーの選定、活用が徹底されているだろうか。
また、「どこをターゲット市場と捉えるか」も重要だ。前述のとおり、中国は広大であり、地域によって薬事規制や商習慣が異なっており、単一の事業モデルでは攻略できない。中国主要40 都市の一人当たりGDP及び対前年GDP成長率(図E:参照)を見ると、主要都市でも都市間の格差が非常に大きいことがわかる。先進諸国並みの所得水準に達しているのは一部の大都市のみであり、中国を単一の市場として捉えるのは難しいことが読み取れる。
適切な情報を入手し、ターゲットとする市場を定義した後、最後に求められるのは「事業に対する適切な評価」の実施である。一般的に中国は、総体として巨大な市場であることから事業性を過剰に評価しがちだ。しかし、現実的には、市場を総取りできるわけではないし、そもそも基になっている市場規模のデータすら信頼性に疑問が残る。しっかりとした調査をせずに、大まかに事業性を捉えて参入したもの、実態との乖離が大きく、思ったほどのリターンを得られずに「やっぱり中国はよくわからない。大きく投資するのは危険だ」と投資を萎縮してしまうケースが多い、とは複数の中国事業担当者の談だ。投資を縮小してしまうとさらに苦戦するのは目に見えている。こうした負のスパイラルに陥らないためにも、適切な事業性評価が重要なのである。
ローランド・ベルガーは、中国市場への参入戦略策定をこれまで数多く支援してきた。出自である欧州系企業や日系企業だけではなく、中国のローカル企業の事業展開の支援実績も豊富に有している。
特に、ヘルスケア領域は弊社が中国において数多くの経験とノウハウを有する分野の一つである。近年は本稿でも論じたマーケットアクセス関連の相談が大幅に増加している。前述のとおり、どのプロジェクトでも肝になるのは現地現物による正確な情報の収集と競争優位性あるターゲット市場の設定と現地に根ざしたマーケットアクセスモデルの立案、および適切な事業性の評価である。是非今一度中国でのマーケットアクセスモデルをレビューしてみてはいかがだろうか。
諏訪 雄栄(Suwa Yoshihiro)
ローランド・ベルガー インドネシアジャパンデスク シニア プロジェクト マネージャー
京都大学法学部卒業後、ローランド・ベルガーに参画。日本および欧州においてコンサルティングに従事。その後、ノバルティスファーマを経て、復職。製薬、医療機器、消費財を中心に幅広いクライアントにおいて、成長戦略、海外事業戦略、マーケティング戦略、市場参入戦略(特に新興国)のプロジェクト経験を多数有する。
閭 琳(Lin Lu)
ローランド・ベルガー コンサルタント
慶応義塾大学政策・メディア研究科を卒業後、ローランド・ベルガーに参画。医薬品、食品などのヘルスケアや消費財および商社、自動車を中心に事業戦略、マーケティング戦略、新興国参入・展開戦略の立案および実行支援のプロジェクトを多く手掛ける。ヘルスケア&ビューティーグループのメンバー。日中BOP事業研究会事務局長も務める。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授