国民皆保険へと動き出したインドネシアヘルスケア産業の魅力と落とし穴飛躍(1/4 ページ)

世界第4 位の人口と豊富な中間層、近年の安定的な経済成長と日本に対する親近感の高さを背景に、インドネシアの位置づけはますます高まりつつある。中でもヘルスケア産業は、市場参入や新事業展開に期待が持たれているが“落とし穴”はないのか。

» 2014年06月02日 08時00分 公開
[諏訪 雄栄(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger

世界最大規模の医療保険の誕生

 "World's largest healthcare system"――2014年に入って、インドネシアで盛んに聞かれるようになった言葉だ。インドネシアは、2014年1月1日を皮切りに、2019 年1月1日までの5年間をかけて国民皆保険への移行を開始した。移行初年度の2014年1月時点では、全国民の72%に当たる1億7,700万人が新制度(BPJS: Badan Penyelenggara Jaminan Sosial)の被保険者となり、最終年度の2019年には全国民にあたる2億6,700万人がBPJSによってカバーされるようになる。これは、単一の支払者が運営する医療保険としては、同じく皆保険を目指す中国の公的医療制度にこそ規模で及ばないものの、文字通通り「世界最大規模の医療保険」の誕生を意味する。

 世界第4 位の人口と豊富な中間層、近年の安定的な経済成長と日本に対する親近感の高さを背景に、日本企業にとってインドネシアの位置づけはますます高まりつつある。2013年末に国際協力銀行が発表した日系製造業の海外有望投資先では、長らくトップであった中国に代わり、インドネシアがついに1位に浮上した。中でもヘルスケア産業は、マクロ経済の成長に加え、国民皆保険導入による後押しが期待できるとの見方から、市場参入や新事業展開の相談が後を絶たない。一般的に、人間は裕福になるにつれ医療や健康への投資を増やしていく傾向がある。実際、一人当たりGDPと一人当たり医療費は極めて相関関係が高い。(図A、図B参照)

図A:一人当たりGDPと一人当たり国民医療費の関係(2010)
図B:インドネシアの国民医療費[USD十億ドル]とGDP構成比[%](2010)

 インドネシアの国民医療費は2010年時点では200億USドル(約2兆円)と同年の日本の国民医療費(約37兆円)の1/18 にすぎないが、インドネシアが目標としている2025年1人あたりGDP15,500ドルを達成したとすると、2025年の国民医療費は3,630億ドル(約36兆円)にのぼり、ほぼ2010年の日本に匹敵する規模だ。もちろんこの一要素だけをもって将来の市場を予測するのは乱暴ではあるが、10年後にはインドネシアが世界有数のヘルスケア市場になる、という予測は、増え続ける人口と経済成長を考えれば決して荒唐無稽な話ではない。

 インドネシアが「総論として」有望な市場であることは論を待たないが、筆者が現地で日本企業に対するコンサルティングを提供するなかで感じるのは、必ずしも一筋縄ではいく国ではない、という現実である。本稿では、インドネシアに対して我々が持つ期待と現実の乖離が何によって生じているのか、地に足のついた事業拡大を進めるには何が必要なのか、特に外資系企業が陥りがちな3 つの"落とし穴"について論じてみたい。

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