「無印良品」を展開する良品計画が商店街の活性化に取り組んでいる。無印良品の店舗を拠点に、「自走」する商店街の組合に「伴走」しながら課題解決を支援する。
「無印良品」を展開する良品計画(東京都文京区)が商店街の活性化に取り組んでいる。無印良品の店舗を拠点に、「自走」する商店街の組合に「伴走」しながら課題解決を支援する。約2年半前、群馬県と岡山県の2商店街で開始した。その一つ、岡山表町商店街(岡山市北区)のケースを紹介する。
岡山表町商店街は岡山市の中心市街地にある。岡山城、日本三名園の一つ岡山後楽園も近い。江戸時代から400年続く、南北約1.4キロに約300店舗が軒を並べる県内最大の商店街だ。
良品計画は令和5年3月末、商店街に無印良品2店舗を同時オープンした。商店街の店舗とあって販売面積は標準的な店舗の約10分の1。ゆえに1つは食料品や日用品などに、もう1つは衣料品を中心とした品ぞろえに厳選した。
が、狭いゆえのメリットもある。森川伸二店長は「お客さまとの距離が近いから自然と会話が生まれる。直接声が聞けて、品ぞろえに反映させることができる」と語る。
良品計画は自らのミッション(使命)をこうかかげた。「店舗は地域のコミュニティセンターとしての役割を持ち、地域の皆さまと課題や価値観を共有し、ともに地域課題に取り組み、地域への良いインパクトを実現する」
そこで「一坪開業」という企画が生まれた。
商店街への新規出店を支援すべく、地元の生産者や事業者を対象に無印の店舗内に試験販売のコーナーを提供した。「いきなり店舗を持つのは不安」、「賃借する店舗が広すぎる」、「初期投資が大きく出店に躊躇(ちゅうちょ)している」といった課題に応えた。
地元の岡山県立大学とは陳列棚を共同開発した。くぎや接着剤を使わない「木組み」を採用し、災害時には組み替えて簡易ベッドなどになるという。
今年10月には岡山銘菓の「大手まんぢゅう」と協働した。
良品計画は古くなった無印良品の衣料品を店頭で回収し、新たな価値を持った商品に再生、販売する事業を行っている。
岡山では、こしあんを作る過程で捨てられていた小豆の皮を染料の一部に活用。古着のシャツを薄紫色に染め直し、再生する商品を開発、岡山限定で販売した。
「岡山を代表する商店街」と呼ばれた岡山表町商店街も「空き店舗」という課題を抱える。来街者数は昭和40年代の約4分の1にまで減り、時代とともに通行量は変化している。
そんな商店街の再生に、良品計画が関わるきっかけとなったのは約3年前にさかのぼる。
当時、無印良品は近隣の商業施設「岡山ロッツ」で営業していた。ロッツは若者向けのファッションの店が入居する人気スポットだ。その施設を出て商店街で「つながる市」という期間限定のマルシェを開催することになったのである。
つながる市とは文字通り無印良品が地域とつながることを目的とし、地元産品を扱う地元業者を集めて行うイベント。それまではショッピングモールや駅ナカでの開催が一般的だった。これを商店街のにぎわい創出に生かしたいと、組合側から要請されたのである。
つながる市を通じて両者の関係が強化される中、ロッツが令和4年に閉店し、無印良品も撤退が決まる。それでも、つながる市の開催は続き、関係も維持された。さらに組合からは無印良品の商店街への出店が強く要請される。
このころ、良品計画では「生活圏へ」と出店が積極的に行われた。事業を通じて地域の課題を解決し、地域に貢献することが企業理念の「使命」の一つに加えられていた。それもあって岡山表町商店街と前橋中央通り商店街への出店が決まった。
良品計画で商店街への出店の段階から伴走しているのはソーシャルグッド事業部だ。準備は慎重に進められた。
同事業部の高須賀大索さんは振り返る。「私たちは自走する地域に伴走するという姿勢で臨みました。出店には十分な説明と同意が必要です。商店街の伝統や歴史、文化についても教えてもらいました」
岡山表町商店街は8つの商店街で構成され、それぞれに課題や事情がある。総論賛成でも、各論ではいろいろな意見がある。
同事業部はあらためて組合の実際の状況に耳を傾けた。商店街の活性化・再生を目標としていることを組合の会合で、必要なら個別に、時間をかけて丁寧に説明し理解を深めてもらうことをこころがけた。
良品計画の調査によると出店後、下之町では空室率が10%程度改善した。高須賀さんは「私たちの力はごく一部で、地域の人と歩調を合わせて取り組んだ結果」と述べた。
良品計画は自走や活性化を可視化するため、「空室率」や「通行量」、「情報発信回数」などを把握し、計画・実行・評価・改善の4段階を繰り返す。企業ならごく当たり前の手法を組合とも共有できないかと考える。
とはいえ、そこも慎重な姿勢を崩さない。同事業部の工藤浩樹さんは「一般的な企業は半期ごとに目標を定め、結果を検証するが、商店街は目標設定や時間軸が違う。目線合わせは丁寧にコミュニケーションをとりながら進めていきたい」と語る。(安東義隆)
岡山表町商店街は上之町、中之町、下之町、栄町、紙屋町、西大寺町、新西大寺町、千日前の8つの商店街で構成される。
8商店街でつくる表町商店街連盟の片山進平理事長は商店街の「リブランド」に取り組んできた。リブランドとは「昔のにぎわいを取り戻すのではなく、その時代に合った関わり方を再設計することが再生につながる」という考え方だ。
商店街の課題として「コミュニティーの欠落」を挙げる。かつての近所付き合いが薄れ、よその店への関心は薄い。「各店の悩みは多種多様だ。それを人ごととせず相談に乗り、ともに考える、そんな空気の醸成に取り組みたい」と力をこめる。
無印良品の誘致でもリーダーシップをとった。「無印良品は商店街で買えないものを補完し、集客面で貢献してくれる。商店街の活性化に向けた活動の当事者として頼れるパートナーになってほしい」と期待する。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授