欧州の企業は、早くからメガトレンドを戦略の軸として考えてきた企業が多い。日本企業にとっても、今後の経営課題に対応する先行事例として参考にすべき点が多いのではないだろうか。
リーマンショック以降、メガトレンドを見極めて、自社の方向性を探ろうとする傾向は強くなりつつある。しかし、既にメガトレンドそれ自体は語りつくされた感が強く、今後はそれらへの対応の巧拙が問われるステージに移行しつつある。
この点、欧州の企業は、早くからメガトレンドを戦略の軸として考えてきた企業が多く、現在も試行錯誤を繰り返してきている。日本企業にとっても、今後の経営課題に対応する先行事例として参考にすべき点が多いのではないか。本稿では、欧州メガトレンドに加えて、その結果生じる融合と分散への対応策について論じる。
欧州は依然として世界経済の中で重要な位置を占めている。日本にとっても、米国、中国に次ぐ第三位の輸出先であり、日本企業も積極的に欧州展開を推進してきた(図表1)。長らく欧州は財務問題に端を発する危機状態が継続してきたが、経済力以外の魅力も含めて、世界経済の主要なポジションを占め続けるものと考えられる。
リーマンショックを契機とする谷の時期を経て、世界経済は再び上昇基調に回帰しようとしている。欧州においても経済環境の改善の兆しが見えつつある。さらにEU拡大も継続しており、クロアチアに続く西バルカン・トルコ等への拡大が視野に入ってきている。
これまで欧州市場の見方としては、成長率は高くないものの経済規模は依然として大きく重要な市場、国別に事業環境が異なり個別対応が必要、参入は難しいが一度ローカライズできると堅調なビジネス展開が可能、などが一般的だと思われる。
しかし、これから紹介する欧州のメガトレンドを踏まえると、上記のような見方を変える必要があるかもしれない。
EUは今後も紆余曲折を経ながらも拡大傾向が続くと想定されるが、その性質には変化が生じる可能性がある。つまり、メガトレンドを背景に様々な事業機会を提供する市場である一方、急激な業績悪化が起こりうる市場へと変質する可能性があるのではないだろうか。
欧州危機を経て、いま欧州経済は回復基調に戻りつつある。これまで欧州の業績低迷の背景は欧州危機であるとしてきた企業も、今後は景気上昇を背景に業績回復を期待しているのではないだろうか。しかし、市場特性の変化に対応できていなければ、再浮上に成功し業績が上向くとは必ずしも限らない。
a.メガトレンド研究
将来の有望市場の発見、および事業環境の変化を予測するために、メガトレンドを見極める取り組みが注目されている。グローバルレベルでのメガトレンドについては、多様な視点からの分析が存在している。本稿では欧州という視点からメガトレンドを考察し、欧州の事業環境の特質について考えてみたい。
前述のとおり、メガトレンドについては既に多くの分析がある。弊社においても、The Trend Compendium2030の中で7つのメガトレンドを紹介している(図表2)。最も影響力のある米国においては、1996年以降メガトレンドが分析・公表され、最新版は2012年末にGlobal Trends 2030(NIC: National IntelligenceCouncil)として発表されている。また欧州においても、Global Trends 2030 . Citizen in an Interconnected and Polycentric World(ESPAS: European Strateg y and PolicyAnalysis System)として公表されており、今後継続的な詳細化が予定されている。
b.欧州の文脈
図表2のとおり、弊社スタディThe Trend Compendium 2030でも深堀りしているが、今回は、欧州の公的機関がどのようにメガトレンドを捉えているかに着目し、ESPASが公表したGlobal Trends 2030- Citizen in an Interconnected and Polycentric World を取り上げる。
このレポートでは、グローバルでのメガトレンドとして、以下の3点が指摘されている。それぞれについて、欧州の文脈で解釈を加えていくこととしたい。
(1)個人の影響力拡大:グローバルコミュニティと期待値
ギャップの拡大(The empowerment of individuals:a global human community but a growing expectations gap)
a. 世界の人口は、2030年までに83億人に増加すると言われており、その中でも所謂中間層が大きく拡大すると推測されている。これらの人々は、情報技術の発達によって、より相互のコネクションを強め、国境を越えた連帯を作り出すと予想されている。この点、欧州でも周辺の新興市場を取り込みながら、価値観を共有し、相互に関係を深め、EUを中心とする一つのコミュニティとしての意識が高まると考えられる。
b. 一方で、価値観の共有が不安定さにつながるリスクも予想されている。実現したい価値観が一緒であったとしても、各人が居住する国によって、その実現度合いは異なり、極端なナショナリズムや外国人排斥、その反動としてのポピュリズムの台頭等につながるリスクも指摘されている。このような期待値ギャップについては、欧州ではEU内に財政能力に差のある国々を抱えており、一層リスクが高いと想定される。
(2)人類社会の発達と不平等・気候変動・資源枯渇(Greater human development but inequality, climate change and scarcity)
a.上記の人口拡大と同時に、衛生環境・医療の発達、教育機会の拡大などが実現し、ある程度の生活水準の向上が期待されている。
b. しかし、同時に、全てが直ぐに解決されるわけではないことも指摘されている。加えて、気候変動・資源枯渇の問題も懸念され、人類社会の発展への障害と認識されている。この点、欧州では特に資源の問題は深刻と考えられており、高エネルギーコストへの対策、生産性の向上に向けた取り組みの強化が必要となっている。最近公表されたWorld Energy Outlook 2013 (IEA: InternationalEnergy Agency)では、シェールガスで安価なエネルギーを調達可能な米国などに比べて、欧州におけるエネルギー集約型産業の輸出が大きく落ち込むと予想されている。
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明治学院大学 経済学部准教授