電気も貨物、蓄電池搭載船を屋久島運航へ 海上パワーグリッド、洋上風力のケーブル代替も

電気を運搬すれば、余剰電力を離島に送電したり、海底ケーブルを敷くのが困難な海域にも洋上風力発電所を設置したりすることが可能になる。

» 2025年12月09日 09時24分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 蓄電池を搭載し電気を“貨物”のように運ぶ注目の「電気運搬船」の開発に着手する企業がある。蓄電池スタートアップ(新興企業)、パワーエックス(岡山県玉野市)の子会社の海上パワーグリッド(東京都港区)だ。電気を運搬すれば、余剰電力を離島に送電したり、海底ケーブルを敷くのが困難な海域にも洋上風力発電所を設置したりすることが可能になる。運航に向けて、屋久島(鹿児島県)で検証を始めた。

電気運搬船のイメージ。当初よりも小型になる予定だ(海上パワーグリッド提供)

大手商社や日本郵船などが出資

 パワーエックスは、衣料品通販大手ZOZO(ゾゾ)で最高執行責任者(COO)を務めた伊藤正裕社長が2021年に設立した。伊藤氏は食肉加工品大手、伊藤ハムの創業者の孫としても知られる。

 同社は蓄電池や電気自動車(EV)用の急速充電器の製造・販売を手掛ける。三菱商事や三井物産、伊藤忠商事、日本郵船、電源開発など多くの大手企業が出資しており、将来が有望視されている。

 今年6月に本社を東京都港区から製造工場のある岡山県玉野市に移した。12月19日には東京証券取引所の新興企業向けグロース市場に上場する予定だ。

水力で発電した電力を周辺の島に運搬

 パワーエックスが24年2月に電気運搬船事業を分社化したのが、海上パワーグリッドになる。別会社として独立させたのは、事業スピードを加速する狙いがある。伊藤氏が会長を兼務する。

 同社が開始した検証は、屋久島の水力発電でつくられた電気を蓄電池にため、電気運搬船で種子島や口永良部島など近隣の島に運ぶことを計画する。屋久島で発電事業を手掛ける屋久島電工と共同で進めており、28年ごろの運航開始を目指している。

 屋久島は日本一雨が降るといわれ、水資源に恵まれる。2千メートル級の山もあり、落差を利用した水力発電が盛んで、島内で使う電力のほぼ全てを水力で賄っている。一方、周辺の島はディーゼル発電機での発電が多い。海上パワーグリッドは、屋久島でつくった環境負荷の低いクリーンな電気を運び、「島の脱炭素化に貢献したい」としている。

洋上風力のコスト削減に貢献か

 電気運搬船は、パワーエックスの出資企業でもある造船最大手の今治造船と建造を目指す。全長90メートルの初号船に水冷式蓄電池コンテナを搭載する。当初は全長140メートルの運搬船を計画していたが、島の電力需要などを勘案し、船の大きさや蓄電池の搭載量を見直す。一度で一般家庭約60世帯の年間消費量に当たる24万キロワット時の電気を運ぶとしていたが、半分の12万キロワット時に減らす方針。初号船は27年に完成させる計画だ。

 海上パワーグリッドではまずは電力融通で運搬船の活用を目指しており、離島での就航に注力する。これらの地域で実績を積んだ後、大型運搬船の建造に乗り出す。風車を海上に浮かべる浮体式洋上風力発電は資材価格の高騰などで計画が停滞している。ただ、大型運搬船を使って電気を運べば、洋上風力の送電網を補完でき、課題となっているコスト削減にも寄与することが期待されている。(佐藤克史)

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