M&Aが失敗に終わってしまう要因の大きなものは、「不十分な戦略策定」「買収価値の見誤り」といったM&Aのプランニングフェーズでの失敗によるものと、買収後の「ガバナンスの弱さ」「不十分な企業文化の融合」によりシナジーが実現できなかったことによる統合後の失敗によるものに大別される。(図B参照)
M&A、中でもクロスボーダーM&Aにおいては、証券会社から持ち込まれる案件に短期的に対応することが求められ、自社の成長戦略との整合性が取れないままM&Aを進めてしまうといったことが起こりがちである。本来、自社の成長戦略を策定した上で、そのギャップを埋めるための手段としてM&Aが存在し、ターゲット企業の選定、コンタクトを行い具体的な交渉へと進めていく流れが、案件ベースでの検討に流されてしまうことによる悪影響をどのように抑えていくかが極めて重要である。
案件ベースでの検討に陥いることで、M&A自体が目的化してしまい、本来、何を達成するためのM&Aで、どのようなシナジーを、どの程度見込むのか、またその実現に向けてどのようなリスクがあるか、といった買収価値算出の前提となる検討がおろそかになってしまうことが散見される。さらには、買収価値算出の前提が崩れた上に、事業面でのデューデリジェンスが不十分なことによる対象会社の事業計画の蓋然性検証が甘くなってしまうこともある。結果として買収価値を過大評価してしまうことにもつながっている。さらには、相手先、および関連するステークホルダーの意向への配慮や、交渉において譲れない条件が不明確なまま交渉を進めてしまうことにより、結果的に買収価格がさらに高くなってしまい、実現すべきシナジーのハードルがさらに高まってしまい、失敗につながることも多く見られる。
案件自体を成立させることに注力するあまり、M&A成立後の統合、またその前提となる統合プランニングを十分に行えないために、結果として、買収先企業に対してガバナンスが弱くなってしまうこともM&A失敗の大きな要因となってしまっている。M&Aに関する交渉、プロセスと並行して、買収先マネジメントと買収後のアクションについてすり合わせができていない場合には、買収先企業のマネジメントとの権限・責任が不明確になり、さらには、買収先企業の業績モニタリングも指標・体制両面で不十分なまま実質上放置されてしまう状況に陥ってしまうことが多い。
さらには、M&Aによって何を達成したいのか、中長期でどのような姿を目指すのかを具体的に示し、シナジーを実現するためのアクション・体制を明確にしておくことが早期の統合効果実現には不可欠である。しかしながら統合事務局側の工数不足もあり、対応が遅れがちである。シナジー実現のため、アクションを明確に示せないことで、買収先企業にガバナンスが効かず、シナジーの実現に時間がかかってしまうことが多く見られる。特に、クロスボーダーM&Aの場合には、国内同士のM&Aよりも明確な方針を提示する必要があり、事前準備の重要性が大きい。
歴史的背景や企業文化が異なる中で、企業文化を融合する仕組みが不十分なために、買収先企業と親会社の間で融合が進まず、シナジーの実現に時間がかかってしまうこともM&A失敗の大きな要因となってしまっている。親会社のマネジメントが統合後、事務局に丸投げしてしまうことにより、経営陣同士での意識あわせが進まず、グループとしてのビジョンや企業理念そのものが共有されず、方向性を見失ってしまうことがある。そのためどのような機会で、両社の企業文化を融合していくかを具体的に設計しておくことがきわめて重要である。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授