固定観念にしばられず顧客経験を活用した創造を目指す(1/2 ページ)

医療関連や子ども用品など、多くの商品がユーザーの経験に基づいて開発される機会が増えている。顧客経験とユーザーイノベーションには、どのような関連性が存在するのか。この分野の第一人者である法政大学の西川英彦教授が語る。

» 2015年03月04日 08時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]

 「カスタマーエクスペリエンスによるマーケティング戦略」をテーマに開催された通算第67回目となる「エグゼクティブ・リーダーズ・フォーラム」のSIG(Special Interest Group)に、法政大学 経営学部の西川英彦教授が登場。「カスタマーエクスペリエンスとユーザーイノベーション」の関連性について事例を交えて紹介した。

顧客経験は誰が誰に提供するのか

法政大学 経営学部 西川英彦教授

 カスタマーエクスペリエンス(顧客経験)とは、「企業が顧客に提供する」ものなのか、「企業が顧客から調査する」ものなのか、「企業が顧客とともに作る」ものなのか、あるいは「顧客が自らのために利用する」ものなのか。この答えのひとつとして、医療分野における事例が紹介された。

 「2012年に開催されたロンドンマラソンで、下半身麻痺の英国人女性がバイオニックスーツであるReWalk suit"を使って完走した。これは、まさに消費者のニーズで開発された商品である」(西川氏)

 Rewalk suitは、1997年の交通事故で下半身麻痺になり、車いす生活を余儀なくされたイスラエルのアミット・ゴファー氏が、自身のエンジニアリング技術を生かして開発したバイオニックスーツである。ゴファー氏は、2001年にArgo社を設立。商品化されたRewalk suitは、2014年に米国食品医療品局(FDA)の認可を取得している。

 「Rewalk suitは、ビジネスのために開発されたものではなく、ゴファー氏が、自分自身が困っていることを解決するために開発したもの。まさに顧客が自らの経験をもとに、自身のために開発、商品化したものだ」(西川氏)

医療分野も患者や患者の家族が経験を生かしてユーザー企業家が生まれることが多い分野のひとつだ。

 「患者がユーザー企業家になるのは、大きく3つの理由から。1つ目は病気の人の数が非常に少ない場合。患者の数が少ないと開発費を回収できないので企業としては参入しにくい。2つ目は患者にとって日常生活に大きな障害がある場合。Rewalk suitがこれにあたる。3つ目はそのままでは死を迎える絶望的な場合だ」(西川氏)

 顧客が自らのために顧客経験を利用する分野としては、子ども用品の分野も顕著だ。1980年〜2007年に子ども用品を発売した企業263社のうち84%が、両親、祖父母、ベビーシッターなどのユーザー企業家によるものである。

日本のユーザーイノベータは390万人

 顧客経験と企業・顧客の関係には、企業から顧客への「提供型」、リードユーザー(先端顧客)から企業への「調査型」、クラウドソーシングによる企業と顧客の「共創型」、ユーザー企業家による「自立型」の4つがある。「提供型と調査型は企業イノベーション色が強く、共創型と自立型はユーザーイノベーション色が強い」と西川氏は語る。

 ユーザーイノベータといわれる人は、どれくらいいるものなのだろうか。日本は国民全体の3.7%にあたる390万人、米国は5.2%にあたる1170万人、英国は6.1%にあたる290万人といわれている。

 どのようなイノベーションを起こしているのか。日本では、新たな商品の創造が1.7%、既存の商品の改良が2.5%、その両方が0.5%、トータルでは3.7%。米国では、創造が2.9%、改良が2.8%、両方が0.5%、トータルで5.2%。英国では、創造が2.0%、改良が4.8%、両方が0.6%、トータルが6.2%となっている。

 どんな分野で起きているのか。主な分野は、工芸・工作道具、スポーツ・趣味、住居関連、造園関連、子ども関連など。日本で特徴的なのは、住居関連の46%で、3.7%のうちの半分が住居関連である。これは狭い住居を快適にするための工夫だと思われる。

 どのように開発しているのか、開発資源は何なのか。例えば日本では、1人あたりの平均年間支出が12万円であり、390万人をかけると0.46兆円になる。日本企業の研究開発支出が3.47兆円なので、約13%がイノベータの総支出割合となる。しかしこの開発資源がほとんど活用できていない。

 企業がイノベーションをどれくらい受け入れているかといえば、日本は5%、米国は6%、英国は17%である。知的所有権を要求する消費者は、日本は0%である。西川氏は、「ユーザー側はイノベーションを基本的に利用してもらってもかまわないと考えているが、企業側の受け入れ体制が整っていないのが実情だ」と話す。

 理由のひとつに探すのが難しいということが挙げられる。各分野でみてもイノベーションの割合は1%以下であるうえに、ほぼ1発屋である。たとえば化学分析機器の分野では、30のうち28が1回だけのイノベーションであり、アンケートやモニターで探すことが困難な状況である。

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