当時、京王電鉄の情報システム部門は、自社のシステムに加え、京王百貨店をはじめとするグループ企業のシステムも一部管理していた。ただし現場では、ネットワークを統一して複数のシステムを運用する発想がなかったそうだ。
「新しいシステムを作るたびに、専用のネットワークも立ち上げるという状況でした。『それ、1つのネットワークにできますよ』と言ったら、本気で驚かれました(笑)」と、虻川さんは当時を振り返る。
当時手掛けていた百貨店のMD(マーチャンダイジング)システムの構築が終わったタイミングで、バラバラだったネットワークを統合し、グループを横断するインフラの構築を始めた。また、当時上司が新たに立ち上げてくれたチームで、若手の育成も開始した。社内のITを刷新する中で、虻川さんは京王グループが持つビジネスの“伸びしろ”にも注目していたという。
「沿線には、京王百貨店や京王ストア、京王不動産など、駅前の一等地を使って人を集められるビジネスがありました。ITを使えばこうした強みをさらに引き出し、顧客にもっと良いサービスを提供できると考えていました」(虻川さん)
システムの刷新は順調に進み、時間に余裕ができた虻川さんは、終業後の時間を使って「情報処理試験」などの資格勉強を始め、エンジニアの勉強会やコミュニティー活動に参加し始めたという。
「当時、そのようなコミュニティーは少なく、問題意識を持ったメンバーしか勉強会に集まってきていなかったので、さまざまな刺激を受けました。自分の抱えている課題について『これはどうしてる?』と、気軽に話し合えましたし、分からないことは直接メーカーに聞きに行ったこともありました」(虻川さん)
こうしたコミュニティーでの情報交換を通じ、「次のテクノロジートレンドを見極める力が付いた」と虻川さん。それは、路線バスの全車両への無線LAN導入や活用、駅構内でのデジタルサイネージの設置といったアグレッシブな施策まで多岐にわたる。
その他、新事業のアイデアにつながった例もある。その一つが、京王電鉄が2001年に始めた、光ファイバーを使った企業向け通信事業「京王ネットワークコミュニケーションズ」だ(現在は京王ITソリューションズの一部)だ。
当時、固定電話やデータ通信など、自前の通信設備を利用者に提供する、いわゆる「第一種通信事業者(現在は電気通信事業者)」に私鉄がなるのはまだ異例のことだった。鉄道の脇に設置されている自社用の光ファイバーを使って通信事業会社を始めようとした理由は、一体何だったのか。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授