もうひとつのMaaSがもたらす製造業の構造変化〜データ駆動型B2Bシェアリング経済の台頭〜視点(1/2 ページ)

Manufacturing as a Serviceの最終形はまだ流動的だが、さまざまな領域のIIoTを統合するサービスを形成すべく、機械製造設備メーカー、大手システム事業者、ソフトウェア企業の三者協働が進んでいくだろう。

» 2019年12月25日 07時06分 公開
[田村誠一ITmedia]
Roland Berger

急成長を続ける産業用IoT市場

 製造業、中でも組立(ディスクリート)産業におけるIoT市場規模は、2022年までにグローバルで5兆円に達するといわれる。2016年から2022年までの年平均成長率は実に25.1%。

 この急成長市場に対し、(1)工作機械メーカーは、ハードウェア製造業者からデジタルソリューションプロバイダーへと全力で舵をきっている。(2)クラウドベースのIoT基盤MindSphereをもつ独Siemensのような大手システム事業者も参入、(3)Watson擁する米IBM、Azure擁する米Microsoftといったソフトウェア企業も、ERPやSCMと製造現場システムとの連携を武器に参入姿勢を強めている。いずれも、AI、VR、5G通信といった先端技術を、商品・サービスに組み込む研究に余念がない。

概念から実体へ―Make DX Tangible―

 毎年ドイツで開催される「ハノーバー・メッセ 2019」。出展企業6500社、来場者21万5000人に達する、世界最大のこの産業専門展示会は、2011年に「Industrie 4.0」コンセプトが発表された場であり、以降、その進捗度を確認する場として存在感を増している。2019年のテーマは“Make Digital Transformation Tangible”。Industrial IoT (IIoT、産業用IoT)は、いよいよ現実的成果が求められるステージに突入したことを物語っている。

 企業経営者や業界専門家への40超のインタビューによれば、IIoTのユースケースは、統合デジタルソリューションへと急速な進化を遂げつつある。ネットワーク化から監視、最適化、予測、自動制御へと高機能化が進むとともに、その制御範囲も、製品単位からシステム、工場全体、企業全体へ拡がる。(図A1参照)

A1:IIoTのユースケースと進化、A2:データ駆動型Maasと産業のレイヤー構造化

 とはいえ、統合デジタルソリューションの先頭を走る工作機械メーカーですら、その実態の多くは、既存のコア事業からの収益が支配的で、IIoTは試験的な付加サービスにすぎず、必ずしも収益の柱と位置付けてはいない。

 そんな中、より野心的な会社も現れつつある。独Siemensと協働する独HellerのHeller4Industry、独Porscheと独Schulerの合弁企業Smart Press Shopなどは、新たなデジタル事業モデルMaaSに取り組んでいる。MaaSといえば、一般にはMobility as a Serviceを指すが、ここではManufacturing as a Serviceを意味する。その最終形はまだ流動的だが、さまざまな領域のIIoTを統合するサービスを形成すべく、今後、機械製造設備メーカー、大手システム事業者、ソフトウェア企業の三者協働が進んでいくだろう。

受託製造を超えて

 MaaS(Manufacturing as a Service)は、製造業の事業モデルの変遷に鑑みて自然な進化形だ。一回限りの製品販売(売り切り)モデルは、製品レンタルサービス、アフターサービスといったサービスモデルへと進化してきた。そして今、製品製造という行為そのものがサービス化されつつある。超高速インターネット通信、安価なクラウド基盤、センサリング技術とアクチュエーターの進化などにより、この動きは今後ますます加速、従来の受託製造サービスの域をはるかに超え、企業のグローバルサプライチェーンを抜本的に変革していくだろう。

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