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» 2020年08月24日 07時30分 公開

飛躍:アフターコロナに急展開するASEAN食品Eコマース (1/2)

新型コロナウイルスが猛威を振るい、外出自粛を余儀なくされた期間、世界各地で食品Eコマースが伸長した。

[福田稔, 下村健一,ITmedia]
Roland Berger

はじめに

 新型コロナウイルスが猛威を振るい、外出自粛を余儀なくされた期間、世界各地で食品Eコマースが伸長した。外に出て食品を買うことができず、また外食もできない。だが、エンタメなどとは違い「食」は生活に欠くことのできないものだ。どうにかして手に入れようとすればその手段にEコマースが挙がるのは必然だろう。

 実際、東南アジアでもシンガポールのネットスーパーであるRed Martはこの期間中、食品Eコマース売上が急拡大。ある食品カテゴリーでは従来の10倍の売上に至ったという。これは一過性のものなのか、または食品Eコマースがいよいよ市民権を得るということなのか。

 食品は日々必要になるものであり、最も購買頻度の高い商材である。一度、Eコマースでの購買を体験し、その利便性に気付けばEコマースが定着していく可能性は高い。そして、そのきっかけが新型コロナウイルスの自粛期間で多くの東南アジア消費者に与えられた。

1、 Eコマース最後のブルーオーシャン

 そもそも食品はあらゆる商材の中で最もEコマース化率が遅れた商材である。全世界で食品のEコマース化率は2〜3%でしかない(図表1)。食品Eコマースが進んでこなかった背景は複数ある。

 AmazonなどのEコマース事業者にとっては温度管理が繊細な食品物流拠点を持つことのハードルの高さがある。また、リアル店舗を有するスーパーやコンビニにとってはネットスーパー事業への投資対効果の低さ、そして既存店舗とのカニバリがボトルネックとなる。

 消費者にとっても食品という商材(特に生鮮系)は、近くにリアル店舗があるのならば実際に見たいというニーズが強い。供給側・需要側、双方の観点から食品Eコマースの浸透を阻む要因が存在していた。

 だが、食品市場は非常に規模が大きく、関連市場も多岐にわたる。ここがEコマース化されることのインパクトは甚大だ。そういった観点からも食品はEコマース最後のブルーオーシャンといわれている。

図表1: 世界の商材別EC化率

2、東南アジア食品Eコマース拡大の方向性

 では、今後、東南アジアの食品Eコマースはどのように成長していくだろうか。結論を言ってしまうと、一般的なEコマースのかたちではなく、東南アジア特有の業界構造や商習慣を背景とした特殊な方向性を示すのではないかと考える。その可能性を以下の4つ提示したい(図表2)。

  • 1、ディストリビューター(中間流通事業者)によるEコマース展開
  • 2、B2B型食品Eコマースによる中間流通のディスラプション
  • 3、オンラインデリバリーの躍進
  • 4、食品D2Cの本格化
図表2: 東南アジア食品Eコマース拡大の方向性

2、1 ディストリビューター(中間流通事業者)によるEコマース展開

 Sino Pacificなど、一部の食品ディストリビューターがLAZADA(モール型Eコマース)に出店し始めている。

 従来、ディストリビューターはメーカーと小売の間を取り持つ中間流通事業者だ。しかし、その中間流通事業者がEコマースという舞台で小売領域に進出を開始した。東南アジアの食品流通市場は、伝統的にローカル財閥系メーカーの自前流通部門が力を持つ。

 結果、独立系ディストリビューターは小規模プレイヤーが多く、非常にフラグメントな構造にある。だが、日系メーカーやその他国籍の外資メーカーとの協業で鍛えられ、相応の規模と力を持つようになった独立系大手ディストリビューターも一部存在する。

 彼らは、単に商品を右から左に流通させるだけではない。メーカーに代わって小売との棚割り交渉を行ったり、小売現場で得られる消費者の声を元に商品開発支援も行ったりする。また、小売に対しても店舗の販促支援であったり、配荷計画への助言も行ったりと、単なるディストリビューターにとどまらない機能を有するのだ。

 そのような力を持った独立系ディストリビューターが、さらなる勢力拡大のひとつとして、Eコマースによる小売展開を画策している。もちろん、メーカーとの仕切値などの販売契約の問題はある。だが、一部で高まっているディストリビューターのパワーバランスを背景に、今後より思い切った展開を見せてくると考えられる。

2、2 B2B型Eコマースによる中間流通のディスラプション

 上記では有力ディストリビューターにフォーカスを当てたが、東南アジア流通の大部分を占めるのは、小規模ディストリビューターである。

 彼らは流通構造の中で明確な付加価値を提供しているわけではない。昔からの付き合いのもと小売側は取引を継続しているが、こういった小規模ディストリビューターに対する不満も多いと聞く。価格設定がコロコロ変わったり、納品自体がなされなかったりと日本では考えにくいトラブルが起こる。

 インドネシアのBukalapakはここにメスを入れた。Bukalapakはもともとはモール型Eコマースとして個人消費者に向けたチャネルだ。だが、2018年、新サービスとして小売商店を主なターゲットにしたB2Bモデルを開始し、急拡大。同社が大手の食品や日用品メーカーから商品を大量購入し、零細商店を中心とした小売に卸すモデルだ。

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