“正直に わかりやすく、安くて、便利に。”DXで生命保険の顧客体験をリデザインする――ライフネット生命 森亮介社長ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

現在、多くの企業が、デジタル化やDXにより、顧客とのタッチポイントに工夫を凝らしている。ライフネット生命では、生命保険業界を取り巻く現状や課題をもとに、「顧客体験の革新」に取り組んでいる。

» 2022年04月25日 07時00分 公開
[山下竜大ITmedia]
ライフネット生命保険 代表取締役社長 森亮介氏

 アイティメディアが主催するライブ配信セミナー「ITmedia DX Summit vol.11 ビジネス価値を創出するDX データ活用で躍進する企業変革と成長戦略」が開催された。Day1の基調講演には、ライフネット生命保険 代表取締役社長である森亮介氏が登場。前半は「ライフネット生命が“顧客体験のリデザイン”に投資する理由」をテーマに講演し、後半はITmediaエグゼクティブのエグゼクティブプロデューサーである浅井英二と対談した。

生命保険を売るものから買うものへと大きく切り替える

 日本の生命保険業界の特徴は大きく3つ。1つ目は「大きな市場」であるということ。年間保険料は約30.9兆円で、1世帯あたりの年間払込保険料は約37万円。国際的にも“保険好きの国民性”といわれている。2つ目は「大きな非効率」ということ。保険会社と消費者の間に情報の非対称性がある。さらに3つ目は「大きな変化」が起きている市場であるということ。さまざまな金融サービスが、スマートフォンで取引できる時代になっている。コロナ禍でオンラインへのシフトが加速していることも特徴である。

 「ライフネット生命の事業は、社名の通り“生命保険(ライフ)”を“インターネット(ネット)”で届けることです。生命保険という100年以上の歴史がある業界は、長年プロの営業職員が売るものとして発展を続けてきました。われわれの最大のチャレンジは、生命保険を営業職員が『売るもの』から、生活者が『買うもの』へと大きく切り替えることです。そのために、“正直に わかりやすく、安くて、便利に。”という4つの価値を軸に、生命保険業界の顧客体験をデザインし直す取り組みを推進しています」(森氏)

 まず「正直に」では、オープン経営を徹底し、業界で初めて「保険の原価(保険料の内訳)」を開示した。また「わかりやすく」では、保障性に特化したシンプルさとわかりやすさを追求。「安くて」では、保険を見直すことで、毎月の保険料を平均7392円節約することを可能にした。さらに「便利に」では、保険相談から給付金請求まで、スマートフォンによる便利なサービスを提供している。こうした取り組みにより、契約は開業から14年間伸び続け、2022年2月には契約の総数が50万件を突破している。

マニフェストの実現に向けた事業活動

 開業から3年で、10万件までは順調に成長し、直近3〜4年も30万件〜50万件は順調に伸びたが、20万件〜30万件の頃は時間がかかった。ライフネット生命が開業した2008年は、まだスマートフォンがほとんど普及しておらず、顧客のジャーニーやWebサイト上での体験は、基本的にはPCを使うことを想定して設計されていた。しかし2010年〜2013年で、スマートフォンの普及が加速し、その上で利用できるサービスも増えていた。2013年にはWebサイトへの来訪者の大部分がスマートフォンを利用していた。スマートフォンでは、PCと同じ顧客体験を提供することができず、ブランド投資が難しいという判断になり、成長が緩やかになっていた。

 「お客さまが求めている顧客体験とのズレが大きいと、ブランド投資を行っても、お客さまに選ばれることに直結しません。このときの反省が、実はその後のライフネット生命の成長を支えています。お客さまがスマートフォンで、スムーズに手続きができる顧客体験を実現することが最大の必要条件であるということを学んだ時期でもありました」(森社長)

顧客体験の革新を実現している最大の原動力は人材

 ライフネット生命が、2018年11月に策定した新たな経営方針には、重点領域として「顧客体験の革新」が登場している。デジタルテクノロジーを活用し、全てのサービスを質的に高め、進化させる顧客体験の革新がきちんとできていることが前提となり、次に販売力の強化策としてプロモーションの実施やビジネスパートナーとのホワイトレーベルの拡大などにより、圧倒的な集客の実現を目指している。

 ホワイトレーベルは、ライフネット生命の商品をパートナーのブランドで提供するOEMのような事業モデルで、現在、KDDI、セブン・フィナンシャルサービス、およびマネーフォワードが、各社のブランドで生命保険サービスを展開し、お客さまとより長期の関係を築いている。

 「顧客体験の革新とは何か。最大のポイントは、PCでうまく事業が展開できたとしても、スマートフォンでもうまく展開できるとは限らなかった、ということです。スマートフォンに、いかにシフトしていくかは、当時多くの業種・業界での課題でした。スマートフォンが当たり前になった現在、“ストレスフリー”と“エンゲージメント”の2つを柱として、顧客体験を再定義する必要があります。課題を1つ1つ点検し、改善活動を続けていきます」(森氏)

 また、ビジネスを拡大するために新しい契約の獲得に目がいきがちだが、本質は逆で、長期間にわたる契約者との関係が重要だ。短い商品でも10年、長ければ生涯にわたり保障が続く商品も提供しているため、保険の入り口よりも、その後の長期にわたるお客さまとの契約関係を、気持ちよく継続・発展していくことを大切にしている。

 オンラインの生命保険の特徴は、北海道から沖縄まで地域差なく高品質の顧客体験ができること。サービスをアップデートすると、その日から全国で同じ改善効果を実感してもらうことも可能。一方、今後いかにパーソナライズされたサービスを提供していくかが大きな課題であり、そのために必要なのがデータ活用である。お客さまの了承のもと、さまざまなデータを蓄積し、ワン・トゥ・ワンのコミュニケーションを提供することで、違和感なく、気持ちの良い体験の提供を目指している。

 このような顧客体験を革新する取り組みは、着実に成果につながっており、第三者評価機関であるJ.D.パワーから、 2022年度生命保険契約満足度調査のダイレクト型チャネル部門において、2年連続で第1位を獲得している。

“顧客体験”を加速化させるために
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