現場主導の小さな積み重ねがDXの文化を育む ―― カクイチ田中離有社長デジタル変革の旗手たち(1/2 ページ)

ガレージや倉庫、物置を事業の柱としながらも、太陽光発電事業をはじめとする新規分野にも大胆に挑戦するカクイチだが、同社のDXの取り組みは意外なほど現場主導の小規模なものの積み重ねだ。しかし、現場が自発的に始めたDXだからこそ、組織力は高まり、新たな事業を生み出す原動力となりつつある。同社はいかにして現場主導のDXを実現できたのか。ITmediaエグゼクティブのエグゼクティブプロデューサーである浅井英二が話を聞いた。

» 2023年01月17日 07時00分 公開

 「やろう。だれもやらないことを」というスローガンのもと、1886年創業の金物店をルーツに約140年、小売から問屋へ、そして製造・販売・サービスへと、次々イノベーションを続け、創造と変革を繰り返してきたカクイチ。社員一人ひとりに挑戦の場を与え、おのおのが光り輝き、人の出会いから何かを学び、常に新しいことに挑戦する喜びを共にして、「カクイチにしかできない仕事をする」ことを目指している。ガレージや倉庫、物置を事業の柱としながらも、独自性と絶対価値を追求し、最近ではエネルギー、農業、コミュニティーの分野にも進出する。そんな同社に脈々と受け継がれ、礎ともなっている起業家精神はどのように育まれてきたのか。「老舗ベンチャー」とも呼べるカクイチのDXの取り組みについて、田中離有社長に話を聞いた。

カクイチ 田中離有社長

困っている人を何とかしたいというのがDXの出発点

 新たな挑戦が実を結び、今やカクイチの主力事業の1つとなろうとしているのが、太陽光パートナー事業だ。2013年からスタートし、お客さまに、自社で製造したガレージや販売してきた自社の倉庫の屋根の上に、太陽光パネルを載せ、10キロワット以下の小さな発電所を広げてきたものが、太陽光パートナー事業だ。1つ1つの発電所は小さいが、積み上げると17300箇所、136メガの数になる。PPAモデル(Power Purchase Agreement:第三者所有モデル)を推奨し、計画から設置、その後の保守・点検までをトータルにサポートすることで、持続可能なエネルギー循環型社会の実現を目指している。

 「太陽光パートナー事業は、自社のガレージの屋根を借用し、1万7300件に太陽光発電設備を設置しています。初期投資額が250億円程度かかっていますが、売電収入が20年に渡り分割で入って来る仕組みです。一件あたりの売電は少額ですが、積み上げてきたものは原発一機分に相当します。これを原資に複利経営、つまり再投資が可能になります。これがひとつのビジネスモデルになっています」(田中氏)

 太陽光発電設備の設置までの流れとしては、「打ち合わせ・見積もり」から「現地調査・書類準備」「シミュレーション(設計)・提案」「契約」となるが、その間に大量の書類や契約書が必要になる。積み上げるとオフィスの天井まで届くほどの大量の書類や契約書を、手作業でシステムに入力し、管理していたが、作業負荷が高く、業務の改善が必要だった。そこであるベンダーに依頼して、RPAを導入し、入力作業を自動化することで業務の効率化を試みたが、すぐにはうまくはいかなかった。

 仕事を任された女性社員は、会社のお金を無駄にしたという無力感と罪悪感に悩んだものの、誰かの力を借りなければ実現できないと考え、別のベンダーに相談する。そのベンダーは、RPAの導入方法、操作方法はもちろん、非常に複雑な太陽光発電設備の申請書類をRPAに処理させるためには、RPAが処理しやすいデータ形式に変換することが必要であることも教えてくれ、これがRPA導入の最大のポイントとなった。今やDXの推進役となった彼女は、最初からDXを推進できる人材がいる企業は少なく、だからこそ必要なのはパートナーであることも学んだという。

 「困っている人を何とかしたいというのがカクイチのDXです。デジタルは手段にすぎません。太陽光発電設備の申請書類の処理をなんとかできないかというのがきっかけでしたが、社員のほとんどはITには詳しくありません。自分が分からないことは外部に頼ればいいのです。家庭教師付きのDXと言っていいでしょう。大掛かりな仕組みは何ひとつなく、小さなことの繰り返しでリテラシーが向上し、リテラシーが向上するとできることも増え、自然発生的にDXが進みました」(田中氏)

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