「上司力(R)」をキーワードに、大手企業で人材育成支援を行うFeelWorks代表取締役の前川氏。前川氏の考える、部下のポテンシャルを最大限に生かすためのマネジメント新作法とは、どのようなものなのだろうか?
2008年にFeelWorksを創業し、大企業400社以上で人材育成支援などを行ってきた前川孝雄氏は、「上司力(R)」をキーワードに、部下を育てるために上司はどうあるべきかを提唱している。この前川氏がライブ配信で開催しているITmedia エグゼクティブ勉強会に登場。2023年に上梓した著書「部下を活かすマネジメント“新作法”」をもとに、参加者と双方向で意見交換しながら講演を行った。
前川氏からの質問は「今どきの部下は厳しく指導するより、褒めて育てるべきか?」だった。参加者からの意見としては、状況により、内容により、使い分けるべき、人によっては厳しくあってもいいのではないかとの意見もあったが、褒めて育てるべきとの回答が8割以上を占め、若者の早期離職やメンタル不調など、多くの問題が発生している現在、部下が打たれ弱くなっていることもあり、厳しく接するのは難しいという意見が多かった。
前川氏「部下を褒めて育てるという風潮があるが、本音を聞くと、メンタル不調になっても困るし、ハラスメントリスクは犯したくない……という『事なかれ上司』が増えていると感じる。早期離職が問題になっているが、大企業から転職したZ世代にインタビューを行うと、真面目な層ほど『上司はやさしいし、職場も居心地がよかった。だから、こんなぬるま湯の中で成長できるのか不安だ』という答えが多い。
残業規制が厳しく休暇取得を強く求められる働き方改革もあり、若手に負荷はかけられない、といった職場が多い。だが若手社員が求めているのは、部下の成長のためであれば、嫌われても一歩踏み込む厳しさを持つ『本物の上司』ではないだろうか。過去のやり方を押しつける勘違いはNGだが、愛を持って厳しく指導する姿勢は、上司としては必要なのではないだろうか」
次の質問は「優秀な若手人材は、高給で採用するべきか?」だった。参加者からの回答はイエスが約7割、ノーが約3割となった。イエスでは「時代の流れでそうせざるを得ない」という意見が多く、ノーでは「結果を出していないのに、若いと言うだけでは高給は難しい」という意見があった。
前川氏は「私の営む会社が支援する、ある国内大手IT企業で、優秀なエンジニア採用のために、通常の給与テーブルとは別に新卒でも年収1000万という採用枠を作ったが、それでも採用はできなかった。外資系企業であればその2倍、3倍を提示されるからだ。逆に、採用できないことに加え、厳しい時代を長く頑張ってきた既存社員の不満が多く出る結果となってしまった。このグローバル競争、かつ円安の時代には、給与面のみで外資系企業に勝つのは難しい。
フレデリック・ハーズバーグの二要因理論では、働く環境・条件・人間関係・給料などの“衛生要因”を向上させると、社員の不満足が減っていく。仕事内容・責任・承認・達成などの“動機付け要因”を上げていくと、社員の満足度が上がっていくといわれている。賃上げというのは“衛生要因”なので、不満足を減らすことはできるが、満足にはつながらない。
若手社員が求めているのは、成長機会や、働きがいなので、高給で採用するというよりも、むしろ彼らをいかに市場価値の高いプロフェッショナルに育てられるか、仕事のチャンスを提供できるかということで誘引する方が本質的ではないだろうか」
「副業をすると、本業に支障が出るか?」という質問に対しては、参加者からの意見は支障が出ないという考え方が多くみられた。
前川氏「副業不可という企業には、人材を社内に囲い込んで閉じ込めようという考え方があり、そこに自律して働こうとする社員ほど反発を感じてしまう。これまでの日本型雇用には、“年功序列”、“終身雇用”、“企業内組合”という“日本型経営三種の神器”があったが、優秀な若手社員たちは『自分が労働市場で評価されるプロフェッショナルであるか』ということに重きを置いており、副業を禁止して囲い込もうとする考え方は、今や時代に合わなくなってきている。
これまでは、“雇用を守ること”が“人を大切にする経営”だと思われてきたが、今は、“人を大切にする経営”とは、“社内外で通用するプロに育てること”ではないだろうか。社内外のネットワークを生かして、自分のプロフェッショナルとしての市場価値を高めていく、会社の枠を超えてより大きな仕事にチャレンジしていく。そういう副業であれば、どんどん推進したほうがいいし、企業成長にも貢献してもらえるはずだ。」
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授