金融庁が3月に発表した文書「内部統制報告制度に関する11の誤解」を基に、弁護士の牧野二郎氏が内部統制の整備に取り組む上での企業の心構えを説いた。
財務諸表の信頼性を企業に担保させるため、この4月の新年度から上場企業には内部統制報告書の提出が金融商品取引法(J-SOX)により一斉に義務付けられた。だが、これまでの各社の取り組みについて「過度に保守的な対応が行われている」と指摘する声も少なくない。
こうした混乱を踏まえ、金融庁は3月に「内部統制報告制度に関する11の誤解」と題した文書を発表。同文書では一問一答形式で、誤解に関する解説が行われている。
6月27日に開催された経営層向けセミナー「第5回 ITmedia エグゼクティブ セミナー」では、同文書を基に牧野総合法律事務所の牧野二郎弁護士が「11の疑問を正しく読み解く」と題した基調講演を実施。同氏によると、内部統制の最終的な狙いは、競争力の強化にほかならないという。
企業が内部統制システムを構築する際のポイントとして牧野氏がまず挙げたのが「業務の透明化」だ。言うまでもなく、企業のビジネスプロセスには担当者の経験や勘に頼ったブラックボックスのフローが存在する場合が多い。このフローの“見える化”を図ることが業務改善、ひいては競争力の向上につながるわけだ。
そもそもJ-SOXは財務諸表の信頼性を担保するために制定されたもの。ただし、そこで求められている内部統制を確立するにあたっては、“財務”のみならず“業務”の統制も強く求められるのは言うまでもない。業務の不正によって財務統制は容易に崩れてしまうからだ。
「米国SOX法が制定されるきっかけとなった大手通信社の米Worldcomなどの粉飾事件も、そもそもの原因は業績をより良く見せようとした経営陣の不正にある。財務統制を確立するためには、第三者でも業務のほころびをチェックできる仕組みが不可欠」
にもかかわらず、日本企業の中には数十億ものコストを費やしながら、財務統制にしか対策を講じていない企業も散見されるという。もっとも、牧野氏によると、このような混乱が生じてしまうのは仕方のない面もあるのだという。その理由として、対応にあたって前例となる事情がないこと、また、“内部統制”の意味が正しく理解されていないことが挙げられる。その結果、J-SOXと異なる点がいくつもありながら、米国SOX法を引き合いに対応が進められてきたことが、誤解をさらに増徴させる結果を招いているのだという。
その上で牧野氏は、J-SOXは米国SOX法の問題点を修正した、先進的な制度であることを強調。併せて、国内で内部統制について語る際には、J-SOXに加え、会社法における内部統制で強く求められている業務統制を意識する必要があると訴えた。
「内部統制とは企業内部の活動が見えるよう統制をかけること。財務諸表の信頼性を確保することに加え、業務プロセスや顧客の声、さらにリスクを把握するためにも内部統制は欠かすことができないのだ」
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授