にわかに信じがたいことだが、世の中には次々と愚かな行動をとる経営幹部が多数存在するのだ。まったく呆れ返ってしまう。
経営者の資質とは何か。P・F・ドラッカーは、それを「integrity(真摯)」とした。
「成功している組織には、愛想が悪く、あえて人を助けようとせず、人づきあいもよくない上司が必ずいる。冷たく、厳しく、不愉快そうでありながら、(中略)尊敬を得ている人がいる。自らと部下に厳しくプロの能力を要求する人である。(中略)頭のよさではなく真摯さを大切にする。(中略)人間としての真摯さこそ、決定的に重要である」(ダイヤモンド社「現代の経営」)
こういう人は、常に何が正しいかを考え、真摯を重視する。ドラッカーは、真摯を「「学ぶことのできない資質、習得することができず、もともと持っていなければならない資質」としており、真摯の資質に欠ける者は組織にとって危険であるとした。ドラッカーは対象を「経営者」のみでなく「知識労働者」も含めている。意思決定する知識労働者は、真摯でなければならないのだ。
経営者たちは、その資質を身に付けているが故にその地位にいるのか。必ずしもそうではない。筆者の実務経験や経営コンサルティングを通じて、経営者としての資質が明らかに欠ける例をいくつも見てきた。公平感欠如、自己過信、私利私欲など、真摯が欠けているのだ。
真摯は天性のものだ。しかし、経営者や知的労働者たる者、その任に就いたからにはそれを身に付ける努力をしてほしい。その努力をしない経営者の何と多いことか。資質がない上に、努力もしない経営者に居座られるのは企業にとって悲劇だ。
以下の例はあまりにもレベルの低い内容で、にわかに信じ難いだろう。しかし、残念ながら先進企業といわれる大企業、中堅企業の実態を表している。経営者は、人の振り見てわが身を直してほしいものだ。世の経営者の猛省を促したい。天性とは言え努力で補ってもらわないと、組織にとって危険である。
「恐怖」を与えるタイプだ。例えば、とにかく部下を叱るタイプが存在する。叱ることに快感を覚えたり、力を誇示したりする場合もあるが、多くの場合、日ごろ指示を守れない部下を叱れば改善されると思っているようだ。大声で怒鳴られるのは怖いが、叱るには大声は必要ない。赤字説明に来て退室する部下に「出口はそっちでない。こっちだ」と静かに言って、高層ビルの窓を指差す大企業トップがいた。
理不尽な人事権を行使するタイプもいる。例えば某大企業で、重大な製品事故を起こしたとき、当事者は処分されて然るべきだが、事故に直接関係のない周辺の者や、かつて職制につながっていた者、将来かかわり合う者まで降格や閑職となった。処遇された者に理不尽さに対する恨みや不満は残ったが、心からの反省はなかった。
事あるごとに一方的に叱られる、あるいは執拗に報復的人事を受ける部下は、終始オドオドしていることになる。彼らはいかに叱責や報復人事から逃れるかに腐心する。そんな風に部下を追い詰めても、得るところはない。
部下にいたずらに恐怖心を植え付けるより、部下の言い分を良く聞き、方針を理解させて、巧みに動機付けした方が部下は動く。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授