これらを受けて「CIOの“I”はInformationではなくInnovationの“I”だ」といった声も聞こえてきます。素晴らしいことかもしれませんが、何ともいえない不安定さというか、危うさ、さらには怪しさを感じている方もいるでしょう。
企業には常に革新・改革が必要だと思うし、それを先頭に立って考え、引っ張り、革新や改革の実現に責任を持つ人間が必要です。ただし、その任を担わせるのにCIOが最適なのかということが問題になります。
理由を1つ挙げてみると、現在のCIOあるいは次代のCIO候補が、革新や改革を実行するだけの能力や経験を持ち合わせているのかという疑問があります。
CIOの重要な能力として挙げられるものとして「事業部門とIT部門の協働をリードすること」があります。裏を返せば、これは協働に少なからずCIOが苦労していることを意味しています。
ただし、これらの問題は教育や訓練に始まり、チームでの対応、適任者の外部からの招へいなど対応策は多彩であり、マイナーな理由とも言えます。
最も留意すべき理由は「ITを切り口とした」「ITを活用した」という点です。これは「ITソリューションありき」の改革案になるリスクを包含するからです。もちろん「費用対効果を厳しく検証することで、必要なITソリューションのみの適用とし、場合によってはIT無しの改革もためらわないはずだ」という期待もあるだろうし、これを信じたい気持ちもあります。ただし、本当に担保されるでしょうか。
CIOはIT部門のトップです。IT部門の従業員の活躍の場を作り出し、会社からの評価の機会を――可能ならば高い評価を――創出するという制約から、中立的に意思決定を下し続けることは難しいといえます。
場合によっては、長期的な付き合いのあるベンダーに対して一定量の発注を維持するという負債を、企業人としての歴史の中で抱えているかもしれません。
ITコンサルティングやシステム業界、そしてIT領域を研究対象とする学究畑の人々、いわば「IT業界」がITを中心に据えて企業活動や成功要因を理解、解釈し、提言をしていくといったことは、業界の利益から考えても、ある意味避けられない一面があります。
イノベーションの最高責任者を企業に置くことは良いことですが、CIOにその責を負わせることは、必ずしも妥当ではありません。次回は、CIOの適正な責任・役割と、イノベーションの最高責任者の在り方を中心に考えてみたいと思います。
ローランド・ベルガーはドイツを起源に、高度なプロフェッショナルサービスを展開する戦略コンサルティング・ファームです。設立以来40年以上にわたり、自動車や消費財などの製造業、金融、流通、通信・情報技術などのサービス業においてグローバルな視点でのコンサルティングサービスを提供しています。
早稲田大学政治経済学部卒業後、米国系戦略コンサルティングファーム、米国系総合コンサルティング・ファーム、米国系ITコンサルティング・ファームを経て現職。電機、建設機械、化学、総合商社、銀行など幅広い業界の大手企業において、事業戦略、オペレーション戦略、IT戦略の策定などを手掛ける。
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