コーチングというとどのようなイメージを思い浮かべるだろうか。コーチとクライアントが1対1で対話をしている場面を想像する方が多いのではないだろうか。
さて前回お伝えしたとおり、この第2回目から読者の皆さんにご紹介したいアプローチが、「組織と関係性のためのシステム・コーチング:ORSC(Organization&Relationship Systems Coaching)」という新しいコーチングのスタイルだ。まず皆さんは、コーチングというとどのようなイメージを思い浮かべるだろうか。コーチとクライアントが1対1で対話をしている場面を想像する方が多いのではないだろうか。
また、グループコーチングといったようにクライアントが複数の場合は、コーチが個々人の考えを引き出しながら、全体の合意を形成していく様子が思い浮かぶかもしれない。こうした従来のコーチングとORSC(文末に注)との最大の違いは、ORSCでは複数人からなるチームそのものを「生き物=システム」ととらえ、そのシステム自体をコーチングの対象とする、という点だ。このように、相互依存を繰り返しながら織りなされる「生きた」人間関係そのものを扱うコーチングを、わたしたちは「システム・コーチング」と称している。
ちょうど先日、来月から始まるサッカーW杯の日本代表メンバーが発表されたが、彼らがどのように1つのチーム=システムとして機能するか、皆さんも大いに期待するところではないだろうか。個々のプレーヤーの個人的な力、例えばフリーキックの精度やドリブルの突破力、といった類の技は個々人の才能や練習量がそれを決める。
一方、どんなに優秀なタレント選手の集団であったとしても、それがチーム=システムとして機能していなければ、強豪チームから勝ち点を上げていくことがいかに難しいかは容易に想像できる。同時に、たとえ個々の力量の総和で相手チームに劣っていたとしても、チーム力という掛け算で相手チームをしのぎ、勝利した瞬間は、まるでミラクルのように見ている者に痛快な喜びと、感動、希望を与える。
この2人以上の人間が集った際に生まれるチーム力という「何か」。わたしたちはこれを自分でもないし他のメンバーそのものでもないという意味で「第3の存在」と呼んでいるが、この第3の存在こそが、システム・コーチングの対象である。この第3の存在は、そこに存在する関係性そのものであるが故に「目に見えない」という一見御し難い性質がある。実はこれが、前回ご紹介したそのシステムの活力、すなわちプロダクティビティやポジティビティに大きく影響していることは、感覚的に理解できると思う。
先のサッカーの例に戻れば、個々人の技術的な課題やチームとしての戦術とは別に、相手より多く得点する、という具体的な結果を出すためのチームのムードや雰囲気が立ち上がり、より良い関係性が生まれていく。この関係性こそがシステム・コーチングが取り扱う領域だ。
別の言い方をすれば、システム・コーチングとは、コーチがシステムを構成する個々人が持つあらゆる思いや意見を「システムの声」として尊重し傾聴していくことで、今システムに何がおきているのかが明らかとなり、その結果メンバー同士が「自覚的」かつ「意図的」に良い関係を創り上げていくプロセスを支援する、とも表現できる。
実際にシステム・コーチングを体験した方々からの声を拾ってみると、「お互いの距離感が縮まった」「一体感を体験した」「今チームとして何が大事なのかが分かった」など、チームの一員としての体感覚的な効果を感じる声が多く、さらに「本音で率直な話し合いができた」「深い対話の場だった」と、システム・コーチングの効果の表れとして、チーム内のコミュニケーションが進化し、チーム内の親密感が増すといった点が評価されることが多い。
大切なのは、自分たちが属しているチームの関係性に対して、個々のメンバーが「自覚的」になることである。メダカは自分が淡水魚であることを知らず、イワシは自分が海水魚であることを知らないように、通常わたしたちは、自分を取り巻く環境や関係性に対して無自覚であることが多い。そこにあえて「自覚的」になることで、自分たちが置かれた状況で、今、何が起きているのかについて明快に気づくことができる。
その気づきが、次のステップである「意図的」な関係性のデザインにつながっていく。「現状を知った上で、今後、自分たちはどんな関係性を共につくり出したいのか」という考えに自然に意識が向き、意図的な関係性のデザインが自律的にスタートしていく。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授