米Appleのスティーブ・ジョブズCEOは「全体の力は、部分としての個人力を集めたよりもはるかに大きい」と話す。個人技の本場ともいえる米国においても、チームワークの重要性は多くのリーダーの言葉を通して語られているのだ。
「チームワークは重要だ」――異論を唱えるビジネスパーソンは少ないだろう。特に個人技よりも集団の力を尊び、チームワークをお家芸にしてきた日本的組織経営においては、その重要性を論ずるなど「いまさら」と感じる読者も多いかもしれない。個人技の本場ともいえる米国においても、チームワークの重要性は多くのリーダーの言葉を通して語られている。
米Appleのスティーブ・ジョブズCEOは、とあるインタビューにこう答えている。
「全体の力は、部分としての個人力を集めたよりもはるかに大きい。個人では決してなしえないことがチームなら可能となる。それがビジネスの素晴らしさだ」
チームワークとは洋の東西を問わず、同じ目的を共有した人々が、個人ではなしえない大きな成果に向けて力を合わせるための、人類共通の知恵なのである。
わたしたち2人はコーチとして、チームに内在する本来の力がひも解かれ、ビジネスの現場において発揮されていくプロセスを支援している。この連載では、こうしたコーチングにおける経験と現場の声を基に、改めて組織におけるチームワークについて考えてみたい。ここでご紹介するツールやケーススタディは、皆さんが実際に身近なチームに対してかかわっていく際のきっかけと勇気となれば幸甚である。
さて、ここであえて疑問を呈してみたい。果たしてチームワークは今も日本の組織の根幹をなしているのだろうか。ひとたび現場の声に耳を澄ませると、想像以上に苦戦するリーダーたちの姿が浮かび上がる。分かりやすい右肩上がりの成長は終わり、長期化する経済不況の中、過去の成功体験が役に立ちにくい時代となった。組織のトップは疲弊し、社員との間に本質的な対話を必要とするも、従来の上下の関係性がそれを邪魔する。
成果主義型の人事が広がり、仕事の成果が個人レベルに細分化された結果、組織におけるチームワークは人事評価の対象になりにくくなった。個人の目標達成が優先され、頼らない、頼られない、頼れない、そんな孤軍奮闘は、相互依存の関係性を細らせ、表面的な人間関係を生んだ。ITの進化によって仕事が常に身近にあり、誰しもが忙しすぎる。職場での無駄は減ったかもしれないが、人間的なつながりや安心感も同時に減った。
このような「分断の時代」にあって、リーダーが直面するチャレンジは大きい。チームワークは大事だと頭では分かっているものの、人事権、情報量、決定権など、明らかな権限と役割の違いがある中で建前と本音がせめぎ合い、リーダーの問題意識は部下に共有されにくい。対症療法の問題解決に焦点が当たり、問題の本質や視座について俯瞰的に話し合う場も少ない。
さらに、仮にセクショナリズムが横行すると、複数の部署に関連する隙間領域に問題が起こりやすくなる。それをカバーしようとする志の高いリーダーが責任を抱えすぎてメンタルを病むといった悪循環の例は、枚挙にいとまがない。
過去の遺産とも言える軍隊式の上意下達の関係性は「どうせ組織は変わらない」「言っても仕方がない」といったあきらめを蔓延させる。一度チームワークが崩壊すると、密室で物事が決まるようになり、その決定プロセスを共有していない社員はますますチームを信頼しなくなる。結果的に、部下はますます「待ち」の姿勢となり、自主的には動かない依存体質に拍車がかかっていく。
皆さんの組織にこのような「分断」は起きてはいないだろうか。改めてこの時代に組織において求められるチームワークとは何だろう。ここからは、「ベストチームとは何か」を問いながら、さらに考察を進めていきたい。
皆さんは「自分にとってのベストチーム」を問われると、どんなチームを思い浮かべるだろうか。それは学生時代の仲間たちかもしれないし、憧れのスポーツチームかもしれない。
ここからは「チーム・ダイアグノスティック・アセスメント(チーム力診断サービス)」(TDA、注1)の考え方に基づき、ベストチームの姿をさらに探っていきたいと思う。TDAでは「プロダクティビティ」と「ポジティビティ」の2軸で構成される4象限で、チームの状態を表現する。(図表1)
ここで、プロダクティビティとは、チームが要求されている機能を果たすための能力であり、ポジティビティとは、チームとして業績を上げるために必要な風土や関係のことを指す。ポジティビティという言葉は、ダニエル・ゴールマン氏のEQに関する研究より引用されている。
言うまでもなく、ここでベストチームとはプロダクティビティとポジティビティの双方が高い状態を指している。図表1を参考に、ぜひ、その状態を思い浮かべてみてほしい。逆にプロダクティビティとポジティビティの双方が低いチームや、いずれかが高くいずれかが低い状態のチームについても考えるとイメージがより鮮明になる。
今、読者の皆さんのチームはいったいどのような状態にあるのだろうか。
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明治学院大学 経済学部准教授