ビジネスによってITガバナンスはどう変化するか(2)Gartner Column(3/4 ページ)

» 2010年06月15日 08時00分 公開
[小西一有,ITmedia]

自立性志向の企業は各事業部での意思決定を重視

 自立性志向の企業のビジネスガバナンスは、各事業部や各拠点での意思決定から最大限のベネフィットを獲得することを目指しています。そこで、ITガバナンスにもこのような拠点ベースでの意思決定を反映させ、そのフォーカスを、コーポレートセンターではなく顧客対応部門に置く必要があります。

 ただし、IT組織が事業部全体のシナジーを高める役割を担うことがエグゼクティブによる指令となった場合に限って、全社的なITガバナンス・アプローチに変更する必要があります。MITSloanとGartnerEXPによる調査によって、事業部の自立性を尊重しつつ高いガバナンス成果を上げている企業では、意思決定スタイルに主に次の2点の重要な特徴があることが明らかになりました。

 1つ目の特徴は、コーポレートセンターと事業部が関与する連邦制モデルによって事業部の自立性を確立するための方法を含め、今後のIT活用法に関する基本原則を制定している点です。

 2つ目の特徴は、ビジネスアプリケーションニーズおよびIT投資/優先順位決定は、多くの場合、事業部だけが関与する封建制スタイルで意思決定し、各事業部による独立的な活動を可能にしている点です。ただし、その独立性はあくまでも、コーポレートIT基本原則内となっています。しかし、自立性を確立するためにビジネスガバナンスが実施されている場合であっても、企業の経営陣は多くの場合、ITにシナジーを生み出す役割を期待しています。全事業部にわたり、少なくともインフラストラクチャに関して標準化を推進することでコストが削減されるためです。

 自立性志向の企業では、シナジー志向の企業のように全社的な手引きをトップダウンで提供することはあまりありません。手引きは、多くの場合、より下層部からのボトムアップの情報提供によって形成され、説得のアプローチ(指示・命令ではなく、見識の「売り込み」によって賛同を得るアプローチ)によって広められます。ほかに、ITグループのコミュニティーが、ベスト・プラクティスの共有とコスト削減機会の特定を目的に、全社的に働きかけるというアプローチも使用されます。

 自立性を尊重する環境においては、CIOは事業部長と1対1で連携し、交渉を行います。成功を収めている自立性志向の企業は、ボトムアップの合意形成といった手段を活用しています。「あなたが100カ所の工場で期限内に標準を導入した実績があるのであれば、残りの工場が同じ標準を導入することに賛同しない正当な理由を見つけるのは困難になります」とある企業(B社)のCIOは語っています。B社には標準設定プロセスがあり、さまざまな部門がこれを活用して、1つの工場のベストプラクティスを全社標準にしています。

 このボトムアップを基本とするプロセスで要する期間はわずか6カ月であり、非常に効率的に機能しています。このプロセスで重要なのは、最終決定を下す各部門のマネジメント委員会(部門長会/部長会)です。最終判断により標準が設定されたら、部門はその標準を実装する必要があります。事業部の業績測定基準は定期的に更新され、いずれの事業部も低評価を受けたくないと考えています。こうした同等レベルでの圧力が推進力となって、各事業部がITをはじめとする業務標準を可能な限り迅速に導入することにつながっています。

 自立性志向の多くの企業では、コーポレートのIT組織がITインフラの社内プロバイダーとしての役割を果たし、ビジネスアプリケーションは各事業部に任せています。IT組織は、このような企業間契約のような取り決めをベンチマーク結果やサービスレベル合意書(SLA)によって管理しています。B社のCIOは、IT活動をインフラストラクチャ関連とビジネスアプリケーション関連の2つに分割しています。コーポレートIT組織がインフラストラクチャに対して責任を担い、情報共有を促すコミュニケーションインフラやバルク調達による割引を受けるための最終的な購買決定に主として携わっています。ビジネスアプリケーションに対しては各事業部が責任を担っています。コーポレートIT組織はベンチマークテストによって、インフラの有効性を測定しています。

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