企業でのスマートデバイス活用とその課題について、ガートナー ジャパンのアナリストに勘所を聞いた。
iPadをはじめとするスマートデバイスが消費者市場に急速に広まる中で、企業も情報インフラとしての活用を模索し始めている。コクヨは、経営層や営業担当者、プロモーション部門などで計150台を導入。さらに、2011年末までに1650台の導入を予定しているという。だが、こうした機器を企業が利用する場合、管理のしやすさやセキュリティなど、解決するべきさまざまな課題が見つかる。企業はこうした課題をどう評価し、経営戦略に生かすべきなのか。
IT関連の調査を手掛けるガートナー ジャパンで、iPadなどの新型デバイスについて分析するアナリスト、針生恵理氏に話を聞いた。
ITmedia 企業インフラとして、iPadなどのスマートデバイスをどのように位置付けていますか?
針生 大きな特徴は、PCとは導入ルートが違うということです。iPadの導入企業の多くは、経営者などのエグゼクティブ層からのトップダウンで意思決定がなされています。エグゼクティブのビジネスアクセサリーのようなイメージかもしれません。
現在、モバイル機器にはさまざまな選択肢がありますが、スクリーンサイズ、機能を基準に考えると、従来のノートブックやタブレットPCなど、フル機能OSを搭載し、コンテンツを作成するために利用される「コンテンツ作成型の機器」と、iPadを含めたメディアタブレット、スマートフォンなどを含む「コンテンツ利用型の機器」に分類できます。
後者のコンテンツ利用型機器は、専用OSやChrome、Androidなど制限されたOSを搭載しているのが特徴で、ガートナーでは、iPadをこちらに分類しています。境界線にあるネットブックあたりは、iPadと競合する可能性もありそうです。
企業PCと従来から利用されてきた「作成型」に比べ、「利用型」はコンシューマー市場をターゲットに開発されていることが多い。企業インフラとしての位置づけではないため、OSやアプリケーションの互換性などが考慮されていないことが多いのです。iOSなどのスマートフォンに使われているOSは比較的新しく、複雑な機能を求められないためにシンプルなつくりになっています。
このようなOSはまだ新しく、頻繁にバージョンアップが実施されます。その際に、従来動いていたアプリケーションがバージョンアップ後に動作しない可能性があります。従って、情報システム部門はOSの頻繁な更新に伴う端末管理の煩雑さや、アプリケーションの互換性を担保することの難しさをあらかじめ計算に入れておく必要があるでしょう。そのため、現状でiPad向けアプリケーションを導入する際は、収益率などを含めて比較的短期的な視点で実施するべきです。
金融商品の説明や金融情報提供の支援ツールとして試験導入
顧客向けカタログ、営業支援ツールとしての試験導入。静止画と動画の組み合わせ。
社内会議資料の閲覧ツールとして約10台を導入。
中古車の出張販売支援ツールとして5台を試験導入
ITmedia iPadを利用する業務をどう検討するべきですか?
針生 iPadは、既に多くの企業が利用しているように、プレゼンテーションツールとしては魅力的です。しかし、これを全社的に情報システムとして活用するのは、まだ慎重に検討する必要があると考えます。というのも、Appleはハードウェア、ソフトウェア、プラットフォームを統合的に管理し、iPadやiPhoneなど、Appleの世界に閉じた環境を構築しています。
UnixやWindowsなどを基盤にした基幹システムをiPadと連携させるとなると、Appleの仕様に合わせて基幹システムを再開発するケースが多くなります。iPadを使って発注処理などを実施するのは、現状では推奨できません。もし実施するならば、既存のWindowsシステムなどとの連携を仮想環境上に実装し、そこに対してiPadをアクセスさせるといった方法がありますが、利用範囲は限定されるでしょう。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授