「クラウドのために組織体制を見直すべき」――大和総研、鈴木専務ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

大和証券グループは8年を費やしてきたシステム刷新を2010年に完了させた。そこで注目されるのが、クラウドをシステム構築に積極的に取り入れた点。そのメリットを極大化するために、同社では事務業務を抜本的に見直した。

» 2011年04月11日 07時00分 公開
[岡崎勝己,ITmedia]

クラウドに対する米国と日本の明らかな"温度差"

 いよいよ本格普及期に差し掛かったとみられるクラウドコンピューティングサービス(クラウド)。ただし、日米におけるその利用動向を比較すると、大きな違いが浮かび上がる。総務省のスマート・クラウド研究会の報告書によれば、クラウドの利用経験がある企業は米国ではすでに過半数に達するのに対して日本ではいまだ1割強ほど。また、基幹システムでの利用割合も米国は日本の約2倍という高い割合を示している。対照的に、システム基盤のみをサービスとして提供するIaaSの採用経験がある企業は、日本では過半数に上るのに対して米国では4割にも満たない。この結果から見て取れるのは、米国は既に「実利用フェーズ」に突入しているのに対し、日本は「利用に向けた準備フェーズ」にとどまっているという現実だ。

大和総研の鈴木専務

 大和総研の専務取締役、鈴木孝一氏は、「第21回 ITmediaエグゼクティブセミナー」の基調講演の冒頭で、この調査結果を基に次のように述べ、日本企業に対してクラウドの利用を加速させる必要を説いた。

「日本では過去、さまざまな種類のサーバが企業や行政で立ち上げられてきた。だが、クラウドの利用に関してはその立ち遅れから危機的な状態と言える。実際に、中国やアジア諸国におけるクラウド関連の売上は今年度にも日本を抜きかねない。この状況を挽回するためには、経営者が率先してクラウドの利用を進めることが強く求められているのだ」(鈴木氏)

サイロ化したシステムを経営視点で刷新するために

 大和証券グループは2010年3月まで、約8年を費やし帳票のデジタル化や業務プロセスの集約、仮想化技術を使ったインフラ統合によるグループ全体のシステム刷新に取り組んできた。そのプロジェクトを指揮した鈴木氏によると、ビジネスに柔軟なシステムとは「その時々で儲かっているビジネスにITリソースを集中させる」(鈴木氏)という、経営視点から考えれば当然のことが、技術的な要因から実践できていなかったという。

 このことを踏まえて鈴木氏が着手したのが、ビジネスの現状から遡ったロジカルなITの整備である。システム上の制約ありきで業務側に手を加えるのはガバナンスの観点からも本末転倒であるからだ。そして、そのために着目したのがクラウドだったのである。

「従来からのシステムはサイロ化が進み、結果的にITリソースに無駄が生じていた。また、余剰のライセンスコストも無視できない額であった。だが、クラウドであればリソースの最適化に加え、サービスインまでの時間も大幅に短縮される。つまり。ビジネス視点でのシステム整備を実践できるのだ」(鈴木氏)

 では、同社では果たしてどのようにシステム刷新を進めて行ったのか。そのためのアプローチが、HDDやメモリ、CPUといった社内のさまざまなITリソースをクラウド化する「インターナルクラウド」の整備である。その適用を通じて業務を一部でも改革できれば、人材の再配置が容易になるなどの分かりやすい「実績」が残せ、次の段階に進みやすい雰囲気が醸成される。鈴木氏は、「新たな取り組みには抵抗もあることだろう。そこで、これからクラウドの利用に乗り出す企業には、ぜひインターナルクラウドの採用を検討して欲しい。ベンダーに丸投げせず、インターナルクラウド化で効果をあげるための策を自らが考える。そこで疑問が生じ、何が問題かを把握できる。それが実践に向けた第一歩となる」と自説を展開する。

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