50代社員の活用・活性化の実践的取り組みの視点と提言50代ミドルを輝かせるキャリア開発支援(1/4 ページ)

企業として取組むキャリア開発計画の視点や現場の推進力となる支援人材の必要性について考えてみたい。

» 2011年04月27日 07時00分 公開
[片山 繁載(日本マンパワー),ITmedia]

 前回は、キャリアショックを乗り切り、新しい職場や仕事に適応していくためのメンタルタフネスの必要性と、その時期に必要な環境適応能力として、「自己活用能力」を考えた。キャリアの下降期の能力発揮の仕方は、組織内の役割交替が背景にあり、上昇期の方法とは異なる。キャリアチェンジの時期には、この能力を生かし、早く自分を活用する場を得ることが大切である。

 今回は、本稿連載の最終回である。これまでの要点をまとめながら、企業として取組むキャリア開発計画の視点や現場の推進力となる支援人材の必要性について考えてみたい。


 初めに――これまでの振返りの要点

 これまでの5回の連載での主張を要約すると以下のようになる。

 ・1回目:50代社員はキャリアを蓄積した人財である。この層を65歳まで現役就労させ、うまく活用することで従来以上の企業業績を上げることができる。企業は個人任せにせず、積極活用策を考えるべきである。

 ・2回目:役職定年などのキャリアショックは、結果的に50代社員のセカンドキャリアのスタートとなる。ここをトランジションの契機として、個人のキャリアを再構築すべきである。

 ・3回目:役職定年などを迎えると50代社員の組織適応は、「定年OB化」などマイナス面も生む。役職定年後に立場が変わってからの働き方や仕事の喜びを再発見させることが大切である。

 ・4回目:50代社員の育成は、今後の人材活用の成果を生むための「キャリア開発回収投資」と考え、企業貢献と専門性開発を問い、キャリアの仕上げ段階として、「ビジネス・プロフェッショナル」を志向させる。

 ・5回目:キャリアチェンジを円滑に進め、新しい組織や役割で力を発揮するには、自ら新しい組織や

人間関係に対し、上手に適応を図る「自己活用能力」の習得・発揮が重要である。

 最終回の本稿では、今後、50代社員の活用・活性化策を短期・中長期のキャリア開発計画の視点や社内の推進人材の存在意義とその役割について考え、最後に提言をまとめておきたい。

「ナイスミドルと呼ばれたい」? =50代のカッコよさを保ち続けるには

 何年か前になるが、中高年の働き方アンケートで、職場でどんな人と呼ばれたいか、という調査があった。いくつかの選択肢の中で、ひときわ多かった回答がこの「ナイスミドル」だったそうだ。辞書をみると、“カッコよさと思慮深さ”を兼ね備えた中年男性(大辞泉)、とある。語感はやや古いが、50代の見え方として、この年相応のカッコよさ、そして思慮深さはぴったりくる。反対の姿はカッコわるさと能天気(のうてんき)=のん気で軽薄、ということか。

 生き生き働いている人は、少々欠点があっても、若い人から見て、それなりのカッコよさがある。仕事の責任を果たすことと、自分の能力発揮の充実感があるからだ。

 ところが、自分のキャリアに天井感が見え始め、現実に役職定年や再雇用を迎え、肩書きのよろいを脱ぐころになると、輝きが失せカッコよさがトーンダウンする人が多い。本当は、セカンドキャリア期に入り、立場が変わっても以前の輝きを失わない、いや、キャリアショックを乗り切り、また一皮むけた人間としての成長を感じるカッコよさを発揮してもらいたい。肩書きがなんであろうが、組織人として1個の完成された人格を感じさせ、すがすがしい働き方ができれば、それは組織に良い影響を与えるだろう。

 だが、仕事ができない人間はナイスミドルとは呼ばれないのが現実だ。仕事ができるナイスミドルやシニア人材を作りだすためには、本人の不断の努力に加えて、企業側の息の長いキャリアサポートもまた必要である。 

社内キャリアの分岐点=上昇・横ばい・下降。なぜ、キャリアの到達点が大きく違ってくるのか

 50代社員のキャリアの到達点は非常に個人差が大きい。その分岐点はどんなところにあったのだろうか。新入社員が新卒で入社する時期までさかのぼり、キャリア形成の視点から考えてみたい。

 毎年、新人が入ってくる。1、2年のうちはほとんど差を感じない。3年から5年目、もうこのあたりで初期の“人財”が選ばれていく。5年目から10年目=チームリーダー、10年目から15年目=課長、15年目から20年=部長、20年から30年=本部長・役員。これが組織期待の役職階層と年齢観だろう。その階層の中で上位3割ほどが先頭集団を形成していく。

 キャリアコンサルティングの仕事をしていると、昇進一覧をよく目にする。驚くのは、若い頃の評価優秀者がそのまま階層形成の先頭であり続けていることだ。事業の盛衰や上司の運・不運もあろうが、できる管理者はできる人を優先的に見出し、引き上げていく。この「人材引き立て連鎖」が組織の強さを生むからだ。初期のわずかな評価の差異が、後の人材期待度に大きな影響を及ぼす。

 問題は何がこの「引き立ての連鎖」の要因となっているかだ。まず上昇基調を築くステップを見てみよう。まずは、初期の職場配属から数年の職場での適合の仕方だ。仕事プラスアルファの評価=気が効く、素直、明るい、努力家などの好印象が、上司の引き立てを誘う。これが本人のヤル気と努力を促し、初期の実績が出る。

 そして第2段階、実務成果を評価される30代頃から、組織の力を使う仕事が増える。ここでは上司の厳しい育成への配慮とリーダーシップ体験を積ませ、「広い視野」と「組織感」を身につけていく。40代ともなると、上下・左右を巻き込んで仕事をすることが日常となり、人間関係・調整力が不可欠となるが、次世代を担うリーダーとしてよい試練と薫陶をうけながら「組織活用能力」を習得する。そして50代。できる人としての評価は定着、周囲の職務支援を受けながら、もう一段大きな役割を任され、キャリアを仕上げていく。(下記図表1参照)

図表1キャリア形成と分岐のイメージ
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