つまり、先頭を走る集団は、初期の好印象⇒本人努力⇒仕事の成果⇒高評価⇒再配置⇒好印象……という上司と本人の育成サイクルの好循環が続くのである。上司・仲間から力添えを引き出すことができる人は、自分の実力と不断の努力+他人の力を借りて、キャリアの上昇感を保つ。特に上司や周囲から評価を受けるヒューマンスキルの要素が大きいのではなかろうか。俗に言う「可愛い奴」という表現がある。人に好ましいと思われる雰囲気を持っている人は強い。逆にこれができない人は停滞・下降をたどりやすい。人事考課表には出てこない評価だが、いくつになっても重要な能力である。これを専門能力だけでカバーしようとすると、さらに回り道になることが多い。
この引き立てとは逆に、中高年になると自ら「キャリアの脱線」(M.W.マッコール)を起こしてしまう人も多い。ある時点まで順調にレールを走って来たのが、職場環境や仕事内容の変化によって、阻害され脱線を起こし、組織不適合となり、引き立てのレールから外れてしまう。よくあるのは、職場環境が違うと(1)ある時期の強みが、弱みになる、(2)以前は問題とならなかった部分が問題や弱みとなる、(3)成功によって傲慢になり人に対して無神経になるなどだ。このような脱線の兆候の初期に、自ら気付くか、他者がそれとなく諭して、早めに直せば脱線にまでは至らない。やはり、若い頃からキャリア形成について上司と話をしたり、自らのキャリアを考えることで、「時代にあった専門性」+「状況に対応したヒューマンスキル=人にいい影響を与えようとする能力」を磨くことが大切なのである。
もうひとつ、気になる点がある。それは、職場の中にある中高年の活用を阻む見えない壁や障害だ。 表題の「職はあっても場がない」という気になるサブタイトルの本(※注1)がある。50代社員の活躍の場を考えたとき、まさにこの言葉のイメージが当てはまる。職=仕事とその能力を持った人材はいる。しかし、この職を持った人が50代のミドル社員であった場合、実際にその仕事をする「場」は必ずしも十分に機能していない。
なぜだろうか。職場の「場」は、一個人の仕事場ではなく、組織目標、達成意欲、意思疎通があって成立している。この「場」の意思疎通は組織内のコミュニケーションによって行なわれる。このコミュニケーションは上位管理職のマネジメントによって方向づけがなされ、職場の仕事ネットワークや仲間意識の土台になる。そのため、50代社員がこのコミュニケーションから物理的・心理的に外れると、その人の働きは一人仕事になってしまう。つまり、職場に仲間として入っているかどうかが問題だ。役職定年になった元管理職・元上司を、上位管理者がキチンと管理し、成果を出させるよう働きかけ、職場ネットワークに入れていかないと、在籍者として存在はしても、仕事仲間として機能しない。形の上で、目標や役割を与えられても現実には、仲間としてコミュニケーションが取れないと成果はあがらない。組織管理の下にはあるが、人間関係からみると孤立した働き方に陥る中高年社員にはこの傾向が強まる。
※注1:「場のマネジメント実践技術」伊丹敬之他か著〔東洋経済新報社2010年〕
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授