第33回:AI時代、ミドル・シニアこそ「起業家のように企業で働」け!マネジメント力を科学する(1/2 ページ)

人間のメンバーとAIも使うと、1チーム20人でやっていたことが3人ぐらいでできてしまう時代が来つつある。これからは組織規模などは関係なく、少数精鋭ユニットになり、自分が主体的にいろんなものを駆使して動けるような時代になってくる。

» 2024年12月16日 07時02分 公開
[井上和幸ITmedia]

 エグゼクティブの皆さんが活躍する際に発揮するマネジメント能力にスポットを当て、「いかなるときに、どのような力が求められるか」について明らかにしていく当連載。

 ミドル・シニア層の転職が広まっている中でミドル・シニアが押さえておくべきキャリアと転職のトレンドについて、合同会社THS経営組織研究所代表社員の小杉俊哉氏、株式会社ルーセントドアーズ代表取締役の黒田真行氏をゲストに迎え、当連載筆者の経営者JP代表・井上との鼎談の内容からお届けする第2回です。(2024年2月6日(火)開催「経営者力診断スペシャルトークライブ:どうなる?どうする?ミドル・シニアのキャリアと転職」)

大手企業1社で勤め上げた人が転職でぶつかる壁

 当社(経営者JP)のエグゼクティブサーチ事業でキャリアや転職の相談をもらった際に、大手企業1社で勤めを長くしてきたミドル・シニア世代に多く見られる傾向があります。

 それは、重責にも就いていて、今回初めて転職をしたいと相談にくる人に多いのが、「今後どういうふうにしていきたいですか?」というすごくシンプルな問いになかなか答えられないことです。

 これまで、良くも悪くも、会社が「君、次はここに行ってくれ。次はこれをやってくれ。よし。次は海外だ」と言って、「分かりました!」と。そこで会社が求めたことに成果をしっかり出さして異動・昇進してきた人。

 これはすばらしいことなのですが、「次はこれをやれ」と指示してくれる人がいなくなったときに、「自分自身は何をしていきたいのか」という問いになかなか答えられなかったりするケースがあります。

 特にこれからの時代、これではきついのですよね。

自身の「スキル×動機」を組み合わせる

 自身の「今後どうしたい」を明確化するための取り組みとして、小杉さんが「スキルマトリックス」を薦めてくれました。これは、自身のスキルの強み×動機のあるなしで分析をするものです。

 ポイントは、いかに「あなたならではの強みの組み合わせを作るか」です。

 「これは動機が絡んでくるわけで、その動機がないことをやるのはしんどいです。でも自分なりの興味関心があり、動機づけができるスキルだったら、今はスキルレベルが低くても、やっていけば伸びていくじゃないですか。絵を描くのが好きなら、アート的なものを仕事の中に取り入れるとか、ChatGPTに興味があるんだったら、それを人より先んじて取り入れて行けばいい。」(小杉さん)

 自分の動機と組み合わせていくことによってオンリーワンになっていきます。

 「かつては専門性を深掘りするナンバーワン戦略でやれたんですけど、一旦身に付けてもどんどん陳腐化していくので、1つの専門性だけではやっていけない時代なのです。さらにその後の段階で、ようやく環境要因を分析して、ここで初めて“やっぱりこのスキルは優先的にやっといたほうがいいね”となるのであって、最初からリスキリングしたほうがいいテーマが分かるもんじゃないと思いますね」(小杉さん)

「雇われる以外の働き方はない」という考えで失うものがある

 経営陣になりたいなら、PL(損益計算書)責任者を務められなければなりません。PL責任者を務めたことがないなら、小さいプロジェクトでもいいから早くやらないといけません。経営陣でPLが分からない人なんて1人もいないわけです。

 責任ある立場での経験によって得られるスキルを早く学ぶために、社内で手を挙げて、そういう仕事に就かせてもらう。今の仕事をしながら副業でもいい。自社でやれないんだったら他社で身に付けるといいでしょう。

 「要するに“どうしたいのか”あるいは“どういうところに自分の動機があるのか”が最初にないと、相対的なキャリアになってしまいますよね。そうすると環境が変わった時に、また“どうしよう”って悩まなきゃいけなくなるのではないでしょうか」(小杉さん)

 そもそも、働くとは「自分が生み出した価値を、対価として交換する」というすごくシンプルなことのはずが、なぜか「雇われること」にすり替わってしまっています。

 この点について黒田さんは言います。

 「極論、“雇われる以外の働き方はない”と思っているのではないでしょうか。だからどんどん選択肢が失われたり、“人生の主導権を自分が持っている”という感覚がなくなってしまったりして、生き方の野生味が失われているというか。そのベーシック・スタンスが、“どうありたいかを自分が決めていいんだろうか”とか“どう決めたらいいんだろう”という怖さを生んでいるんじゃないかなぁと」(黒田さん)

 『鬼滅の刃』の冨岡義勇の名言、「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」があり、中島みゆきさんの『宙船』でも「おまえが消えて喜ぶ者に、おまえのオールをまかせるな」っていう歌詞がありましたね。生殺与奪の権を自分で握る、オールを自分で漕ぐことは、これからの時代、必須です。

「起業家のように企業で働く人」を経営者も求めている

 小杉さんの著書『起業家のように企業で働く』に出てくる、企業の中で「起業家マインド」を持って働いている人は、実際はどこでもいます。「この会社を利用して何ができるか」とか「どうしたらもっと世の中の役に立つか」は、経営者だけでなくて全ての社員が考える権利があるし、考えたほうが得です。

 「だって給与をもらって好きにできるわけですよ。会社のブランドやアセットを使って、自分1人じゃ絶対にできないことが可能なんです。それを経営者も求めているわけですから、やらないのは損だとすごく思いますよね。」(小杉さん)

 まさしくこの感覚で仕事をやれる人が、会社に利益をもたらします。

 実際に、経営陣や社長はこうした人を求めています。こうした人から上に引き上げられていきます。市場価値も高いので、より自分を活かせる会社に転職して成功してる人もすごく多くいます。もっと言えば、本当に起業する人もいます。

 「起業家のように企業で働く」ことが、ある種例外的だった時代から、個人の生き方を守るために、みんながそうならねばいけない時代になってきているのではないかと、今、痛切に感じています。

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