経営統合に向けた協議を進めていることが明らかになったホンダと日産自動車の歴史は対照的だ。
経営統合に向けた協議を進めていることが明らかになったホンダと日産自動車の歴史は対照的だ。戦前に日本の自動車産業の発展を牽引するために設立され、財閥の中核企業の一つだった日産に対し、戦後、町工場からスタートしたホンダはベンチャー企業として挑戦を続け、世界的なメーカーとなった。日産は経営危機を契機にフランスのルノーと関係を強めたが、ホンダは他の自動車メーカーとはあまり組まず、独立志向を貫いてきた。
先に設立された日産の創業者は鮎川義介。明治の元勲・井上馨と血縁が近かった鮎川は岸信介、松岡洋右とともに「満州の3スケ」と呼ばれた実力者だった。日本産業や日立製作所、日産化学、日産生命など多数の企業を収める新興財閥「日産コンツェルン」を形成。自動車工業株式会社(現いすゞ自動車)より譲り受けた「ダットサン」の製造のため、1933(昭和8)年12月、「自動車製造株式会社」を横浜市に設立。当時、国内市場を独占していた外国車に対抗できる国産車の製造を目指した。翌34年、社名を「日産自動車」に改めた。35年には初の量産車である「ダットサン14型」を発売した。
戦後の財閥解体で、三井、三菱に次ぐ財閥だった日産コンツェルンは解体されたが、日産は45年11月には戦後第1号車をオフライン。初の東京五輪が開催された60年代には、道路網の整備も進んだ。日産は66年に発売した「ダットサンサニー1000」などで、日本での乗用車の本格普及に貢献した。同年、「スカイライン」や「グロリア」のブランドを持つプリンス自動車と合併した。
90年代後半、日産は経営危機に陥る。過剰な生産能力を抱えたところにバブル景気が崩壊。販売不振が深刻化し、約2兆円の有利子負債を抱え、倒産さえ噂される状況だった。そこに手を差し伸べたのがフランスの自動車大手、ルノー。資本提携で筆頭株主となったルノーから送り込まれ、最高経営責任者(CEO)などとして業績回復を進めたのがカルロス・ゴーン元会長だ。村山工場(東京都武蔵村山市)閉鎖などのリストラでコスト削減を進め、日産は経営危機を脱した。
ゴーン元会長は日産とルノー、2016年に出資した三菱自動車の3社連合の指揮を執り、17年には3社を合わせた販売台数が独フォルクスワーゲンに次ぐ世界2位となった。しかし18年、ゴーン元会長は金融商品取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕される(後にレバノンに逃亡)。その後、日産を傘下に収めようとしたルノーと日産の“暗闘”の末、23年に両社は資本関係を対等な立場に見直すことで合意した。現在は、ゴーン元会長逮捕後の混乱の後で就任した内田誠社長が経営のかじ取りを担うが、業績は悪化している。その背景に、ゴーン元会長時代の拡大路線の影響を指摘する声もある。
一方のホンダは、本田宗一郎が1948(昭和23)年、浜松市に設立した従業員34人の町工場「本田技研工業」からスタートした。58年には使いやすく燃費性能が高いオートバイ「スーパーカブ」を投入。同社が成長する契機となり、2017年までに世界で累計1億台を販売するベストセラーとなった。
技術に詳しい本田と、経営面から本田を支える参謀役の副社長、藤沢武夫のタッグで、ホンダは急成長を果たす。軽四輪トラックを発売した後、本格的な四輪車事業に進出。67年にコンパクトながら車内空間確保に配慮した低価格の小型車「N360」を発売し、マイカーブームの火付け役となった。また、厳格化された米国の排ガス規制を世界で初めてクリアした低公害エンジン「CVCC」の開発に成功し、搭載した「シビック」も日米で大ヒットした。
モータースポーツにも積極的だった。59年に初出場した二輪車のマン島TTレースでは、61年に125ccと250ccで1〜5位を独占。F1では88年、アイルトン・セナらを擁するマクラーレン・ホンダが16戦15勝と、圧倒的な成績を上げた。
ホンダは2018年、小型ジェット機「ホンダジェット」の販売を開始。22年には電気自動車(EV)の開発に向けて、ソニーグループとの共同出資会社を設立している。
世界首位の二輪車事業が業績を支える一方、四輪車事業の利益率の低さが指摘されてきたホンダ。これまでは、自動車メーカー同士の合従連衡とは無縁な独立志向の強いメーカーとして知られてきた。2020年に米GM(ゼネラル・モーターズ)と北米で販売するEVの共通化などで合意したが、量販モデルEVの共同開発を中止。GMが自動運転タクシー事業からの撤退を発表したことを受け、自動運転分野での提携も解消した。
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