「部下に注意をしたいが、どう言ったらいいか分からない」と悩んでいないだろうか。言いにくいことをきちんと伝え、部下の成長を促す方法がある。それが“ネガティブフィードバック”だ。
ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会にマンパワーグループでシニアコンサルタントを務める難波猛氏が登場。2024年4月に上梓した著書『ネガティブフィードバック 「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術』について、講演を行なった。このネガティブフィードバックとは心理学、キャリア理論、コミュニケーション理論などに基づくものであり、部下から嫌われない、部下が成長する、部下がやる気を出す、パワハラ予防にも役立つメソッドとなっている。
上司が部下に対して、ネガティブなことを伝えないといけない場面は多々ある。「ちょっとしたギャップ解消」「パフォーマンス改善」などの難易度の低いものから「自己評価と上司評価のズレ」、「PIP(Performance Improvement Program=ローパフォーマー対応)」といった少し難しいもの、さらに「降格・降給・ポストオフ」、「退職勧奨・契約終了」といった難易度の高いものまでさまざまだ。
本来、ネガティブなことなど、上司としても言いたくはないし、部下も言われたくないだろう。しかし、ネガティブフィードバックは組織運営上必要なものとなる。社会への価値提供を行う組織のため、部下に気付きの機会を与えるため、周囲のメンバーのモラル維持のため、上司本人の役割責任をまっとうするため。多くの観点からネガティブフィードバックは必要なものと言える。
「ネガティブフィードバックを行わなければ、部下は自分に問題があることに気付けません。本人が気付けないことで、周りのモラルが下がっていきます。そうすると組織全体のエンゲージメントややる気が下がり、目標が達成できず、結果として上司、管理者、経営者としての、役割を遂行できないことになります。こういったデフレのスパイラルにならないように、上司は必要なことをきちんと部下に伝えなければなりません」(難波氏)
ネガティブフィードバックを行う際には、「目的論で考える」ことが必要になる。ネガティブフィードバックを「できない理由」は存在しない。「できない」のではなく「やらない」ことを上司が選択しているのだ。だからこそ、「やらないとどうなるのか?」そして「やったらどうなるのか?」を考えてみてほしい。
問題行動がある部下に、その問題を指摘しないという選択をし続けた場合、部下の行動は変わり、問題が解決するのか? それを見て周りのメンバー納得するのか? 中長期で考えると、問題を指摘しないままで問題が解決することは、ほとんどないはずだ。指摘をすることによって、最終的には問題が解決するという可能性の方が高い。
「ネガティブフィードバックをした場合どうなるのかということも想定してみてください。こじれる場合もありますが、一般的には上司が真剣に話をすれば、部下の行動は変わります。マインドセットとスキルセットを整えてちゃんと向き合ってあげると、上司の言うことはかなりの確率で部下に伝わるのです」(難波氏)
「降格・降給・ポストオフ」、「退職勧奨・契約終了」といった難易度の高いネガティブフィードバックを行う場合、ハラスメントと捉えられるのではないかと躊躇する場合もあるだろう。そんな場合に意識したいことが、下記の3点になる。
「上司は部下を変えようとしがちですが、人間には自立性の欲求があり、他人から強制的に変えられることに対して反発をいだきます。部下を変えるのではなく、部下の行動と、組織が部下に期待している行動との間に発生しているギャップを一緒に話し合って埋めていくというスタンスが大事です。対立軸ではなく、一緒に問題を解決するというスタンスで対応しましょう」(難波氏)
「人間は人格権を侵害されると、精神的な苦痛を覚えます。上司が部下に、主体性や責任感に欠けている、と伝えてしまうと、部下は、自分は上司から主体性のない人間だと言われた、と捉えてしまいます。上司は部下の性格ではなく、具体的な問題行動について伝えなければいけません。明確に伝えられることで、部下は問題行動について理解し、改善する余地ができます。その後に改善できた点を上司が認めてあげれば、部下の承認欲求が満たされ、だんだんと考え方も変わっていきます。いきなり性格を変えるのは無理なので、行動から変えていくことが重要です」(難波氏)
「特に優秀なプレイングマネジャーがやりがちなケースですが、論理的に相手を追い詰めていくようなコミュニケーションはハラスメントのリスクを高めます。相手の逃げ場をなくしてしまうと、相手は感情的に納得できません。部下の感情や反発を把握しながらコミュニケーションを取ることが重要です。もし部下が面談中に納得できないようであれば、『今、納得してないですよね? もし何か言いたいことがあったら、最後まで私が聞きますから言ってください』と投げかけて、最後まで聞いてあげてください。相手の言うことを遮らずに最後まで聞こうとすることで、パワハラと捉えられにくくなります」(難波氏)
上司が部下にフィードバックをする際に有効なフレームワークがある。それは部下の「Will」「Must」「Can」を確認することだ。
この「Will」「Must」「Can」を円で表した際、円が大きく重なっていれば本人にとっても会社にとってもハッピーでハイパフォームな状態と言える。しかし、この円がズレていると、本人の期待と志向、能力があっていないということになる。これらのズレがあるから悪いということではなく、「このギャップをどうしたら埋めていけるか」を一緒に話しあっていくことがフィードバックのポイントになる。
「フィードバックの際に、部下のWill、Must、Canを本人に書いてもらって、これをどうやったら重ねていけるか、広げていけるかと、コミュニケーションを取るといいでしょう」(難波氏)
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授