なぜ企業人は、道徳心を失って反倫理的行為を犯すことになるのか。
上例でも、その原因を示唆している。まず1つは、成功するために手段を選ばないという考え方だ。株主価値の最大化という大義名分も、同じ考えに根ざしているようなものだ。H.Gardner ハーバード大教授の調査によれば、「まっとうな仕事をすべきことは分かっているし、そうしたいのはやまやまだが、成功するには手段を選んでいられない」と考える人が多く、模範的ビジネスマンになることより、とにかく成功を収めることが先決だというのだ。
実業界を目指す若者の間で、道徳を軽視する傾向が広がっていると、彼は指摘する(「ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー」2010.2. 以下の引用は、すべて本書から)。現在日本においても、これは反倫理的行為の最も説得力ある原因の1つだろう。
2つには、物事が順調に進んでいるときは高い倫理基準を守ることは容易だが、状況が厳しくなればなるほど、逆境に立てば立つほど、倫理基準を守りにくくなるということだ。中でも情報が不確実で錯綜し、選択肢が曖昧で、責任が不明瞭な事態に陥ると、道徳的判断力が鈍る。しかも、道徳的人間は孤立しやすい。同調者や組織からの応援がないと、意思がなえる。そして、部下は日頃から上司の言動をしっかり見ていて、見習う傾向にある。
3つには、経営者にはオーソライズされた行動規範がなく、しかもそれを逸脱しても、例えば職能団体などから罰せられることはないということだ。その結果、現代経営者は誠に残念ながら、社会で最も信頼されていない部類に入る(R.Khurana、N.Nohria 各ハーバード・ビジネススクール教授)。
さて、企業経営者は、あるいはビジネスリーダーはどのように企業倫理を守り、道徳的行為を貫き通すべきか。反倫理的行為の原因として最も卑近な例として挙げられる、成功のために手段を選ばず、そして逆境に立つと倫理基準を軽視するという誘惑に駆られることを防ぐには、幾重にも防御策を構築しておかなければならない。
第1に、倫理綱領を明確に示すことだ。「倫理上の問題はしつこく発生し、なかなか消えないため、見えにくくなっているが、解決策は簡単である。経営陣が、自社の倫理綱領をはっきりさせればよい。倫理面での怠慢や堕落、惰性などは単に個人の欠点なのではなく、マネジメントの問題でもあるのだ。新入社員たちはみな、いつかその道徳的判断によって企業の倫理性を左右する可能性があるわけだが、企業というコミュニティに入れば、まず企業の価値観の影響を受ける。」(K.R.Andrews 元ハーバード・ビジネススクール名誉教授)
しかし第2に、逆境や不確実で曖昧な情報の下で道徳的判断をするには、意思決定者の道徳的判断力が問われる。それを、育まなければならない。それは「一朝一夕に身につくものではない。企業の中でこの能力を育んでいくのは、次の要素からなる一連のプロセスである。」(1)「ある意思決定を社会道徳に照らしてその意味を知ること」、(2)「討論によって違った視点の存在に気づくこと」、(3)「"強靭な精神力"である。」「満場一致で決まった解決策がない場合、敢然と決断を下せる資質」を持たねばならない(同上)。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授