○○○○な数字で評価することが、日本の組織をダメにしている――前篇Gartner Column(1/3 ページ)

安易な戦略目標設定こそが、戦略を台無しにし、有効性の高いビジネス・プロセス構築を難しくしている。ビジネスの方向性が明確になっているか、ビジネスの方向性に基づいて戦略目標が定まっているか、戦略目標を達成するための経営リソースが明確になっているか検証する必要がある。

» 2011年07月27日 07時00分 公開
[小西一有(ガートナー ジャパン),ITmedia]

Gartner Columnの記事一覧

 6月30日〜7月1日に東京コンファレンスセンター・品川にて開催しました、「ガートナー BPM&SOA サミット 2011」に参加の皆さまに、あらためて御礼申し上げます。このサミットには、私も講演者として参加していました。「CEOとCIO:BPMとSOAの取り組みが、企業能力となるために、なすべきこと」という題名で、講演しました。この講演中には、質問を受けなかったのですが、講演終了後やサミット終了後にいくつか素朴ながら、たいへん重要と思われるご質問を受け、回答をしました。

 今回は、サミットで話したポイントと、質問および回答の概要を紹介しながら、表題の中の○○○○のあっと驚く2種類の言葉について説明したいと思います。目からうろこが落ちると思いますので、どうぞ、期待してください。

 BPM&SOA サミットなので、わたしたちは、ビジネス・プロセスとは何かという定義を、講演の中で話します。特にビジネス・プロセスが、経営の何に作用するのかを説明することが重要です。そして、経営の何に作用するのかを説明するためには、まず、ビジネス戦略について説明する必要があります。

 ビジネス戦略について、ガートナーでは、(1)ビジネスの方向性が明確になっていること。(2)ビジネスの方向性に基づいて戦略目標が定まっていること。(3)戦略目標を達成するための経営リソースが明確になっていることを条件とします。このうちたった1つでも足りない場合は、ビジネス戦略としては不十分だと考えています。

 この3つの要件のうち、(1)の方向性については、一般的に戦略下手と言われる日本企業もおおむね良い線で達成できているように見えます。しかしながら、日本企業の問題は、(2)の戦略目標にあるように見えます。実際のお客さまの会話から考えてみましょう。「当社の中期計画が出来上がり、『当社はお客様満足度No.1の企業になる』という方向性が示されました。そして、具体的な目標として3年で売上を50%アップして5年で利益を2倍にすると決めたのです。」と言いました。

 この手の話は、会話中の数字こそ違えども、どこの企業で話を聞いても、異口同音のことを話します。しかしながら、この安易な戦略目標設定こそが、戦略を台無しにし、有効性の高いビジネス・プロセスを構築することを不可能にしているのです。

 ここは、素直に皆さんの常識で考えてみてください。顧客満足度No.1になることと、売上・利益は直接的に繋がりません。すごく直接的に戦略と目標を繋げたいなら、顧客満足度調査の評点を現在3.5であるのを3年後には4.0にして、5年後には4.2にするというような目標になるはずです。

 とある半導体メーカーでは、「顧客満足度No.1を目指し、世界中のどこからでも、注文後24時間以内に、必ず全数量完納する。」という戦略と戦略目標を立てました。これは正しく戦略と戦略目標を設定された事例です。

 この半導体メーカーは、受注してから24時間以内に世界中のどこにでも完納可能ならば、顧客満足度No.1になれるはずと仮説を立てました。だから、そのことを目標にしたのです。そして、24時間以内に世界中のどこにでも製品を完納できれば、売上や利益は○○○○のようになるという財務目標も裏では持っていたと聞いています。

 しかし、それは前面に出てこない。なぜなら、それは戦略立案者の責任で達成されるべきことだからです。それを全社員に向かって目標だと責任転嫁しても何も生まれないことを良く知っていたからです。24時間以内に完納することにより顧客に喜ばれ信頼を勝ち取り、次々にリピートオーダーが舞い込んでくるはずという仮説は、全社員で立てた仮説ではありません。この仮説を立てて、綿密に計算された財務予測数字を算出したのは、経営者なのです。

 そこで、経営者サイド(裏)で財務目標値の責任を取るのです。もし、仮に全社員に財務数値を目標として課したらどうなるでしょうか。顧客満足度はそっちのけで、財務目標を達成するために奔走するかもしれません。これでは、何のための戦略の方向性か分からなくなってしまいます。

 しかしこの話をすると、「企業である以上、財務数値で評価され、かつ財務数値が改善若しくは成長しなければ、何ら評価されませんよね。」と言われることがよくあります。わたしの考えはこれです。「財務数値は、企業活動の結果として表れる数字であって、それが全て(過去も現在も未来も)ではありません。つまり、結果として表れているだけで、この先の予測にも繋がりません。従って、企業活動と財務数字との相関関係は、何らかの仮説に基づいており、その仮説を立案した本人(経営者)が責任を負えばよいのです。

 結果としてしか算出されないのですから。」ここで、株主への説明責任の話に転嫁する方もいますが、株価は、過去の業績で上下するものではないということを理解する必要があります。株価は、近い将来の業績予測に基づくものと考えるのが自然です。それゆえに、企業が株主に対する説明責任を負うということは、過去の企業活動によって、結果的に出てきた財務数字が正しいものであることと、現在または、近未来の企業活動により、どのように財務数字が変化するのかを確信を持って説明することだとわたしは考えています。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆