管理者が自らの成長を止めるとき――“止まる”でなく“止める”自己責任だ生き残れない経営(1/2 ページ)

管理者は自分自身の責任で成長、発展する努力をする必要がある。しかし自分がどうすべきか分からないために、向上を止めている管理者が理解すべきこととは。

» 2012年02月20日 08時00分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]

 管理者には、いろいろなタイプがある。これでよくも管理者が務まっているものだと腹立たしくさえ思われるタイプを、身辺に結構見かけるはずだ。腹立たしく思われるだけに、実際以上に多く存在するように感ずるのかもしれないが。一方、本当に優れた管理者だと思われるタイプは、多くはない。可もなく不可もない管理者が、一番多いのか。

 「可もなく不可もない」以下の管理者は、勉強不足なのだろう。努力をしないからなのだろう。はっきり言えることは、管理者ともなればその責任は本人にある。その辺の実態と、ではどうすればよいのかを、以下検討する。

 分かりやすくするために、管理者をあえてABCDEにランク付けして分類してみる。

 A:優れた管理者で、常に進歩しようと努力し、後述する重要課題を確実に実践し、業務実績を出している。調査をして統計を取ったわけでもないが、数%はいるのだろう。

 B:能力を備え、Aに準じた管理者で、後述する重要課題を不充分ながら実践し、実績も出している。これも推測だが、2桁に近い%はいるだろう。

 C:可もなく不可もない管理者で、後述する重要課題を実践しなければならないと思いながらなかなか実践できず、時に部分的に実践し、後悔の念に駆られながらも何とかかんとか業務をこなす。このタイプが管理者の大多数を占める。

 D:能力はないが、時には自分に能力があると誤解する者もいる。後述する重要課題など頭にない。例えば、一生懸命業務に向かっているが、部下を放りだしている。部下を何人抱えても1人分の仕事しかこなせない。あるいは、いつもピントがずれているため、事の軽重が判断できず、上司とも部下とも考え方も議論も行動もかみ合わない。事ほど左様なタイプは、どこの職場にも一定の割合はいるものだ。

 E:まるっきり箸にも棒にも掛らない管理者であり、後述する重要課題はもちろん、管理者が学ばなければならないとか、管理者とは何かとかを、考えたこともなければ、そんな課題が存在することさえ気付かない。そんなどうしようもない管理者が、読者の周辺に存在しないことを祈るが、筆者は時には見かけた。いつもニコニコ、知識がない、情報も集まらない、まとめられない、決められない、底抜けのお人よし。そして何か課の行事があると気前よく寄付をする課長がいた。あるいは、自分でマンションを経営していて、よく行き先不明の外出をする。役所や不動産屋にでも行っているのか。職場のデスクに座っている時は、終始パソコンに向かっている。部下との会話がほとんどない部長代理がいた。さらに他の例として、会社で一番時間を費やすのは私的な株の取引という課長代理もいた。それこそ、彼らを任命した上の責任を問いたいものだ。形は違うが類似の管理者は、やはりどこにでもある程度存在するのだろう。

 以上のいずれのタイプの管理者も、憧れの管理職を任命された直後からしばらくの間は緊張感を持って任務に当たり、さらに成長しようとして努力はしたのだろう。しかしCタイプ以下の管理者は、時間の経過とともに「自分は十分にやっている」とか、「自分は無難にやっている」とか勝手に思い込んで現状に甘んじるようになり、やがては「自分は正当に評価されていない」とか、「自分はうまく使われていない」とか、「自分にそんなことは無理だ」とか言い訳をするようになり、早遅の差はあっても、成長の努力の力を抜いたり、諦めたりするようになるのだろう。管理者が成長するには、そういうマンネリズムに陥ったり、怠惰な精神に取り付かれたりして立ち止まることを避けなければならない。

 そこから管理者を救い出すために、企業には管理者教育プログラムやOJTなどがある。しかし、前者は座学で、しかも一時的なものであって、動機付けにしかならない。マンネリズムや怠惰な精神に取り付かれた管理者の眼を一時的に覚ます効果はあろうが、それ以上は期待できないことを経験上認めざるを得ない。後者は必要なことではあるが、例え教育が企業文化として根付いている企業にとっても部分的教育であり、本人の反応能力に依存する部分もあり、ましてや教育が定着していない企業には期待できないことである。従って、管理者は自分自身の責任で成長・発展するための努力をするしかないのである。

 そこで紹介したいのは、リンダ.A.ヒル ハーバード・ビジネス・スクール教授らが推奨する、日々の仕事に管理者としての学習を組み込む手法である(Diamond Harvard Business Review 2011.sep.)。

 ただし、ヒルらによれば管理者が成長しようとしないのは、管理者が自己満足に陥っているのでも、組織がなすべきことをしていないのでもなく、理解不足なのだとしている。単に自分がどうすべきか分からないために、向上を止めているケースが多いとしている。即ち、管理者が理解しなければならないことは、(1)「素晴らしい上司になることは、長期にわたる困難な学習と自己変革のプロセス」であること、(2)そして「だれかに教えてもらえるものではない」ということ、(3)さらに「組織で物事を成し遂げるために自分自身を道具として使うことで」、「自分自身の能力開発」であり、「秘策もなければ近道もまずない」ということである。そのことを、世の管理者は理解していないというわけだ。

 確かに管理者の理解不足なのかもしれないが、基本的には前記区分のC以下の管理者が理解しようとする意思に欠けているのだと思う。しかも理解しても、その実行にはかなりの強い意思が必要なはずであり、理解と実行を積極的にしようとする意思を確かに持つという責任は管理者自身にある。それがなければ、すべてがスタートしない。従って、管理者が成長しないのは、自らそれを止めていることになる。即ち管理者の自己責任といえる。

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