若いころは誰でも、いろいろな失敗をしたはずだ。その失敗を乗り越え(過去の自分に比べれば)知識も経験もついて失敗しなくなったのは、誰のおかげなのだろうか?
ベテランになると、多くのことが記憶から抜け落ちてしまう。特に「自分も若かりしころ、たいしたことはできなかった」「自分が新人だったときは、多くの人に迷惑をかけた」というような話は忘れてしまっていることが多い。
長い年月を経て自然に忘却の彼方へと押しやってしまった場合もあれば、あまりに恥ずかしく痛々しい思い出なので、心の引き出しの奥深くにしまいこみ、鍵をかけて、二度と出てこないようにと封印までしている場合もあるだろう。そういう方に「若いころの失敗談を紹介してください」とお願いしても、「いやあ、嫌な出来事はすぐ忘れるようにしているので、1つも思い出せませんねえ」と苦笑だけが返ってくることもある。
ある企業でリーダーを集めた研修をしていたときのこと。「若手に“何がしたいの?”と尋ねても、明確な人生のビジョンが言えないんだよね。ただ黙ってしまう」「若手に“どう思う?”と聞いても返事がなくてね。もっと自分の考えを率先して発信してもらいたいと思っているんだけど」という嘆き節で盛り上がっているグループがあった。気になったので近くに行き、会話をさらに詳細に聞いているうちに質問してみたくなった。
「将来の明確なビジョンですか、なるほどお。皆さんが1年目2年目のころ、将来のビジョン、お持ちでしたか?」
「ご自身が新人のころ、上司に“どう思う?”と尋ねられて、即答できました?」
……すると、全員が顔を見合わせ、しばらく黙り、そしてこう答えた。
「言われてみれば仕事を覚えるのに必死で、数年後どうなりたいなんて考える余裕もなかったし、考えもしなかったなあ」
「若いころは、自分から発信なんてしてなかったか」
「そうか、1年目や2年目にそれを強く期待しても、酷なのかも」
そう。人は大抵、今の自分と相手を比べてしまう。30歳の人が30歳の自分目線で22歳の新入社員を評価する。しかし本来なら、自分も22歳の目線に降りて行き、22歳の後輩を見るべきなのだ。そうでないと、若手がかわいそうである。
人は自分のことは棚に上げて、他者を見てしまいやすい。もちろん私だってそうだ。頑張って努力して成し遂げた“英雄譚”であればいくらでも話せるけれど、失敗して大目玉をくらった話などはなんとなく思い出さないようにしている。もちろん「話してくれ」と言われればいつでも話す用意はあるし、現に後輩にはそういうカッコ悪いことも話してしまうことが多いけれど、できれば思い出したくないことは多い。
誰だっていろいろな失敗を犯し、人さまに迷惑をかけ、「ダメだよ、キミは」と糾弾されたことがあるに違いない。それでも今があるのはなぜだろう?
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授