寿命100歳(以上)海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(2/3 ページ)

» 2012年08月08日 08時00分 公開
[エグゼクティブブックサマリー]
エグゼクティブブックサマリー

死の倫理性

 哲学者は、もし人が不死になれば、人間らしさが損なわれるのではないかと危惧しています。2001年から2005年まで米大統領生命倫理評議会の会長を務めたレオン・カス博士は、極端な寿命延長に反対しています。カス博士は、次の3つの理由から、科学者は寿命を延ばす取り組みを止めるべきだと考えています。

カス博士の反対する3つの理由とは?

・「興味と関与」が薄れるから

 大きなことを成し遂げたいという人の欲求は、寿命が長くなれば小さくなります。大会社のCEOになったり、連邦議会議員を数期務めたり、一流大学で陣頭指揮を取ったりした後、人はどのような大志を抱くのでしょう?カス博士は、人生の目的が求められる状態を守りたいと思っています。

・「真剣味と大志」が薄れるから

 カス博士によれば、死ななければ、人生の意義がなくなります。博士は「人生は死によって意味のあるものになる」と主張しています。

・「美徳と高い倫理観」は避けられない死によって促進されるから

 立派な行いをさせるよう駆り立てる差し迫った死の恐怖がなければ、人はより身勝手になるとカス博士は主張しています。しかし、これは一見もっともらしい主張ですが正しくはありません。なぜなら、ヒーローの人助けの倫理的価値は、ヒーローの死によって左右されるわけではないからです。

 過去のさまざまな優生学実験や残虐行為(例えば、戦時中の強制収容所での人体実験)の被害者になった人とは異なり、現代の人々は寿命を延ばす取り組みに参加するかどうか、自由に決めています。遺伝子治療に反対する人の中には、今の遺伝子構造が人類にとって永久に正しい構造だと考えている人がいます。遺伝子介入を罪深い行為だと思っている人の中にもそう考えている人がいます。しかし、寿命を延ばすことが習慣となる未来の世界では、「国が認めた治療法」以外の方法で子どもの寿命を延ばす親は、児童虐待で罪に問われるようになるかもしれません。

 カス博士の見識では、科学の力を使った遺伝子治療に批判的であるということがわかります。この点は、今後も死に対する倫理観の重要な懸案事項として考えていくべきものになることと思います。

寿命延長技術

 貧困にあえいでいる人が沢山いる時に、科学者は寿命延長の手段を生み出すべきではない、という主張があります。当然ですが、貧しい人に比べて裕福な人の方が、そのような寿命延長手段を手に入れやすくなるでしょう。政治学者のフランシス・フクヤマは、遺伝子改良は「人間性そのもの」を変えてしまう恐れがあると主張しています。遺伝子改良を行った人に対して、周りの人は他の人とは違う態度を取るようになるのではないかと懸念しています。

 「X-メン」という映画の中で、社会は超人的力を持った「突然変異で生まれたミュータント」を人間として受け入れず、むしろ治療の必要な「奇形」と見なしています。しかし、社会的平等の伝統を根強く持つ自由主義社会が、寿命延長治療を受けた人を取り締まるような差別的な法律を作るとは考えにくいです。

 フクヤマは、寿命延長技術を公正かつ平等に利用できない状態は、戦争を招く恐れがあると考えています。寿命延長技術を持たない人は、それを手にしようと戦争を始めるかもしれません。少なくとも最初は裕福な人の方が寿命延長技術を手にしやすくなります。そのような中、社会はどうすれば平和を保てるのでしょう?1つの方法は、政府が資金援助し、誰でも手にできるようにすることです。あるいは、政府介入を避け、できるだけ早く自由な流通市場を確立することです。何にせよ、今市場の力によって、全く新しい技術はあっと言う間に世界中で手に入れられるようになっています。

 寿命延長技術の懸念すべき点と具体的な解決策について述べています。どのように社会の中で平等や公平性を保つかが懸念すべき点です。その解決策とは政府の資金援助や市場をオープンにすることです。何れにせよ、科学の発展と人類の進化を統合する上で、大切な考え方だと思います。

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