なぜ日本企業は韓国、台湾、中国企業に次々負けてきたのか生き残れない経営(1/2 ページ)

日本敗退の引き金になった理由は円高だけではない。ビジネスモデル転換の遅れ、リスクを取らないリスク、安易な合理的判断の先行。まずはここからの脱却が課題だろう。

» 2013年02月20日 08時00分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]

 昨今のウオン高傾向で韓国経済に斜陽の兆候が出始め、ウオン安で恩恵をこうむっていた韓国経済や韓国企業に、もう一度「日本に学べ」という認識が生まれつつあるとする論調を眼にするようになった。ここでまさか日本の経営者や企業人が、「やっぱり、韓国企業が日本企業を凌駕したのはウオン安のせいだったか(負けたのは、円高のせいだ)」と安堵することはないと思うが、われわれ日本人には往々にして喉もと過ぎると熱さを忘れ、さらに自分に都合の良い解釈をする傾向があるので、あえて注意を喚起したい。

 日本企業が数年にわたって次々と韓国や台湾、中国の企業に敗退したのは、円高のせいではない。円高が直接の引き金になったことは否めないが、他に根本的原因がある。その原因として考えられるキーワードは、ビジネスモデル、リスク、合理的判断であり、中でもビジネスモデルが最も重要で基本的テーマである。これらについて、以下検討する。

 まず、ビジネスモデルに関わることについてである。日本企業は、中国企業などから資本参加ないしは株式買収を頻繁に仕掛けられている。日本の各産業分野における代表企業である池貝、ラオックス、本間ゴルフ、レナウンなどが経営不振に陥り、中国企業から出資を受け、その傘下に入っている。最近では、シンガポール塗料大手ウッドラム・グループが日本ペイントに事実上の買収提案をした。

 さらに主な例として、生産コスト削減を目的にNECが2011年、中国レノボ・グループが51%、NECが49%出資する合弁会社を発足させ、その100%子会社としてパソコン事業を統合した。当初は対等と報道されていたが、実は統合から5年後にレノボ側がNECの合意があれば合弁会社の全株式を取得できる、となっていることが明らかになった。

 事業再編の一環として、パナソニックは三洋電機の白物家電事業を、2011年中国の家電大手ハイアール(海爾集団 / Haier)に約100億円で売却した。さらに懸案テーマとして、電子機器受託生産で世界最大手の台湾メーカー鴻海(ホンハイ)グループがシャープ株を取得する話が出て、その交渉期限を3月末に控え、シャープが最近レノボ・グループとテレビ事業で提携する方向で調整に入ったともいわれる。

 そして、ものの見事にいずれも成功している。レノボは昨年、パソコンで一時的にHPを抜いて世界首位に躍り出た。ハイアール傘下の旧三洋の現場は、活気を帯びているという。ホンハイ出資のシャープ堺工場は、短期間で黒字化した(日本経済新聞2013.1.22.)。

 シャープは液晶テレビやパネルを事業の柱として投資を続け、亀山工場に3500億円、堺工場に3800億円もの巨額投資をしてきた。円高や電力問題もあったが、サムスン電子など韓国勢との激しい価格競争による年30%ほどの製品価格下落に耐え切れず、液晶パネル事業が赤字に陥り、50%の減産体制も強いられ、遂に2012年3月期連結決算で3760億円の赤字に沈んだ。業績の回復を目指して、ホンハイと出資交渉を始めた。その後シャープの株価急落などがあって交渉が膠着状態にある。その間、シャープが米半導体大手クアルコムの出資受け入れを決めている。シャープが2月1日発表した2012年10〜12月期決算では5四半期ぶりに営業黒字を達成したとされるが、今年9月の2千億円の社債償還や10%を切る自己資本比率など経営環境は依然として厳しい(朝日新聞2013.2.2.)。

 シャープが凋落した原因として、円高や電力問題、作れば売れる時代の終焉などが考えられるが、根本的には自前主義の垂直型経営という事業モデルの限界を示す。昨年3月27日都内の記者会見で奥田次期社長(当時)は、「これまでのようにシャープが、研究開発から設計、生産、調達、販売、サービスまでのすべてのバリューチェーンを手がけるのではなく、今後はこのバリューチェーンのなかに協業を含めることが大切になってくる」。「シャープ単独の垂直統合では限界があった」と語っている。

 同じことが、パナソニックのテレビ事業でも言える。パナソニックの薄型テレビ事業は2012年3月期で4年連続赤字、今期も赤字の見込みだという。その原因として、1つは数量拡大を追求する販売戦略、2つには巨額の設備投資負担である。その背景には、パネル製造からテレビ組立まで一貫して自前主義にこだわる“垂直統合型”の事業モデルがある。

 日本企業がテレビ事業で苦戦する中、韓国サムスン電子が液晶とプラズマテレビの薄型テレビで世界シェア26%以上と2006年から6年連続世界一である。背景には、1997年の韓国通貨危機がある。それを契機に韓国はIMFの管理下に入り、IMF指導の下に1業種に参入できる企業を絞り保護したことが、家電メーカーがひしめく日本と異なる。しかし、そうなるとメーカー数が少ないため垂直統合型経営に傾斜しやすいが、彼らは部品を買ってきて組み立てるという、水平分業型経営の発想に全く抵抗感はない。

 半導体事業が韓国企業などに敗れたのも、同じ原因だとされる。日本の電機メーカーが半導体産業成長期の垂直統合型産業構造に過剰適応した結果、水平分業型への転換に立ち遅れたことに原因がある(池田信夫著「ムーアの法則が世界を変える」アゴラブックス)。

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