なぜ日本企業は韓国、台湾、中国企業に次々負けてきたのか生き残れない経営(2/2 ページ)

» 2013年02月20日 08時00分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]
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 1980年代末に韓国メーカーが半導体事業に参入し、その後台湾メーカーに製造委託するファンドリー・サービスの時代を迎える。従って、日本半導体メーカーが1990年頃コスト競争で韓国、台湾に敗れた時点で、製造部門を国内にこだわらずアジアに移転し、ファブレス化(開発設計に専念)すれば、生き残ることができたかもしれない。事ほど左様に、日本特有の垂直統合型経営の事業モデルには問題がある。事実、売上高当期利益率の実績比較で、「垂直統合型経営」と「水平分業型経営」の間には、明確な差が見られる(注1)。

 これらは、ビジネスモデルの問題である。冒頭紹介の池貝などが株式買収されるに至った諸例についても、ビジネスモデル、名門意識、過剰投資などの問題がある。日本企業は、ビジネスモデルの選択を誤ったのである。それは、日本の経営者はビジネスモデルを学ぼうとしないことによる。そこには、主に2つの誤りがある。

 1つは、日本人のおごりである。尹大栄静岡県立大准教授の面白い分析がある(Google サイト「弱くなった日本企業、元気な韓国企業」 尹大栄 DAEYOUNG YOONより)。「1989年の夏と記憶しているが、神戸大学経営学部のセミナーに招かれた日本のある大手半導体メーカーのトップが“最近、韓国で細々と半導体を作り始めている財閥系企業(三星電子)があるが、あれは取るに足らない”とコメントしていたことを、私は印象深く覚えている。まるで韓国企業などは競争相手にもならないと言わんばかりの発言だった」。

 これが、日本人の共通認識である。そこには、覇者のおごり、ゴーイングマイウエイの頑なな姿勢がある。己のビジネスモデルが最高として、他者を否定する。思考が膠着している。従って、古いビジネスモデルに執着することになる。

 2つには、「ビジネスモデルの構築とは、経営におけるサイエンスとも言え」、「まず仮説から出発し、実験によって検証し、必要に応じて修正するという手順である」。しかもビジネスモデルには、差別化によってライバルより優位に立つという戦略が必要だ(注2)。でなければ、例えば安値競争に陥って消耗する。その認識が、経営者にはない。経営者は、ビジネスモデルについての認識も研究も足りないから過ちを犯す。傲慢で唯我独尊である上に、検証もせず従って修正もしない、戦略もないビジネスモデルなど用をなさない。

 次は、リスクに関わる問題である。日本企業は、長い間リスクを避けてきた。半導体投資についても、日本が不況で控えていた時に、韓国企業が積極的に投資をしてシェアを急伸させたことは有名である。先の尹大栄準教授によると、韓国企業は不況のときに、他企業が投資を減らすのとは逆に、これと思う特定製品(事業)分野、市場(進出地域)に対して極めて大規模な資源投入を伴う積極的な投資をライバルに先行して実行し、景気が上向いたときに一気にシェアを拡大していくという、いわゆる「逆張り経営」が得意である。韓国企業がリスクに強いのは、グローバル市場での競争に勝ち抜いていかなければ生き残れない、という強い危機感を持っているからである。危機感に乏しく、リスクを恐れる日本企業の甘さと対照的である。リスクを取らないことがリスクである、というドラッカーの名言を思い出す。

 もう1つのキーワードは合理的判断である。下手な解説よりも、また尹大栄準教授の鋭い分析を引用した方が良さそうである。日本企業が「バブル崩壊によって失ったのは資産価値だけではなかったのである。それまで日本企業の経営を支えてきた人々の気持ちというか、経営に対する基本的な姿勢、精神、あるいは規範とも呼ぶことができる“経営のエートス”が失われてしまったように思えてならない」。「頑張ってもあまり成果(利益)が得られそうにない分野(市場)からは早々と撤退する“合理的な判断”が重視されるように」なったと指摘する。傾聴に値する意見である。

 最近は、事業撤退のニュースが相次ぐ。例えば電気メーカーの半導体、テレビ、カーナビ、HD-DVD、携帯電話、光ディスクなどからの撤退である。確かに明日を期待できない事業からの撤退は必須なことであり、日本メーカーの場合はむしろ遅きに失する感さえする。しかし、撤退する事業の反面、明日への新規事業に対する投資があるかというと、はなはだ寂しい限りである。結局、安易な合理的判断ばかりが先行しているのである。

 さらに、高付加価値化という大義名分の下に、安値競争から安易に逃避しているのではないか。事実、撤退や逃避はするが、一方で高付加価値製品への投資に対して消極的で臆病な経営者を筆者は数多く見てきた。この背景にも、都合の良い合理的判断が垣間見える。

 実は日本企業が得意としてきた技術面で、韓国メーカーが日本企業を凌駕し始めているという重大な事態が起きている。例えば1月8日から開催された世界最大の家電見本市CESで、韓国LG電子は、薄さわずか4ミリで価格1万2千ドルの55型有機ELテレビを3月に北米で売り出すと発表した。日本メーカーは、すでに周回遅れである。さらに、サムスン電子とLG電子はスマートフォンと白物家電を連携させたスマート家電を、日本勢を出し抜いて打ち出した(朝日新聞2013.1.9)。これらの背景の一つとして、長い期間にわたってリスクを避け、あるいは合理的判断を先行させてきたという日本企業の体質があることは否めまい。

 ビジネスモデルについて十分学ぶことなく、その上に傲慢さが加わって多くの選択肢や検証・修正、そして戦略の反映を否定し、加えて危機感も持たずにリスクを回避して、安易な合理的判断に走る経営者では、日本企業はこの円安で一息ついたかに見えても基本的に立ち上がれないだろうし、いずれまた訪れるであろう逆境で、新興国企業にさらに打ちのめされるだろう。

(注1):利益率の差の内訳、および事業の撤退と明日への投資についての詳細、さらに昨今の経営の閉塞状況からブレークスルーするための具体的な実践手法などについては、筆者の近著「閉塞の時代の経営 ―― ドラッカーの批判的読み方、使い方」:(株)リベルタ出版 をご参照頂きたい。

(注2):Diamond Harvard Business Review 2011.8. ジョアン・マグレッタ ハーバードビジネススクール シニア・アソシエイト

著者プロフィール

増岡直二郎(ますおか なおじろう)

日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。

その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。



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