企業の人材教育はテクニックに走り過ぎ、かつ言い訳が多い、肝心なことを忘れている生き残れない経営(1/3 ページ)

豊かな人材が企業の土壌を豊穣にする。「人材教育」を企業風土として定着させることが必要。

» 2012年04月02日 08時00分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]

 企業の人材教育を説く場合、どこもかしこもテクニックに走り過ぎてはいまいか。

 一方で、言い訳が多過ぎる。言い訳が多いことについては後半で触れるとして、まずテクニックを説くあまりに、肝心なことを忘れているようだ。そこに漏れがあると、せっかくのテクニックも受け入れられにくいし、効果も十分発揮されないだろう。

 食傷気味だろうが、テクニックばかり重視される現実を、ちょっと振り返ってみよう。

 「四つのタイプを理解すれば指導の効果は格段に上がる」として、人間をD(主導傾向)、i(感化傾向)、S(安定傾向)、C(慎重傾向)の4タイプに分け、自分自身と部下のタイプを知ることによって指導方法を変えると効果的だとするDiSC理論を勧めるケースがある。

 部下に行動を起こさせるために指示を与えるときには、「指示の4ステップ」という原則があるとし、Why(何でこんなことをするのか)、What(何をするのか)、How(どういう手順で進めるか)、Result(このワークを終えたら、どんな変化が起こるか)のステップを踏めとする。その中で、指示は2回、2つ褒めろとまでご丁寧な解説だ。

 グローバル化の時代に、不文律が多い日本のやり方では価値の共有化が図れないので、行動規範を作れとする(以上は、「週刊東洋経済」2011.11.12.号より引用)。

 「名選手必ずしも名監督ならず」、名選手はあくまでも名選手、監督としてはド素人、しかも本人がそのことに気付かない。

 「部下の失敗する権利を奪うな」人は失敗から多くのことを学ぶ。トライ&エラーを繰り返しながら成長していく。

 上司は部下を一方的に責めてはならない。責めた言葉は部下の心を頑なにし、上司の教えは決して部下に染み入ることはない(以上は、「日経ビジネス 課長塾」より引用)。

 しかし、何かがおかしい。いかに数多くの優れたテクニックを説こうとも、説かれた上司や部下に受け入れる素地がなければ、まったく無意味である。それはあたかも、荒れた土壌にどんな立派な種子をまいても根付かないのと同じである。テクニックに走り過ぎて、肝心のことを忘れているゆえんである。

 では、「受け入れる素地」「豊穣な土壌」とは何を意味するのか。それを知るために、しばらくの間人材教育に熱心ないくつかの企業の実態を垣間見ることにしよう。

 某大手エレクトロニクス企業の例だが、高卒新入社員は職場に配属になった最初の1年間は、業務の合間を縫って定期的に午後の半日を英語、数学、国語、理科、社会の授業を受ける。その講師は、やはり新入社員の大学、高専卒業者が担う。これは、生徒役、先生役の両者にとって大変な勉強になる。さらに重要なことは、授業を通じて高卒者と大学卒者の今後の交流の基礎が自然にできるということである。これは、総務部教育部門の気の効いた企画である。

 この他にインフォーマルな教育が随所で行われている。例えば、高卒者向けの社内大学的な2年制学校があるが、入学試験はかなり厳しく準備は1年に及ぶ。職場の上司や先輩が、勤務後に受験希望者を自宅に呼んで家庭教師を請け負う。受験希望者に夕食を食べさせたり風呂に入れたりもし、時には泊まらせ自然に人間教育も施される。

 今の経営陣もこれらの洗礼を受けてきているので理解を示しているし、そういう風潮が企業風土として定着している。

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