成功から学ぶことは、失敗から学ぶよりも難しい。成功は学習を妨げるからだ。成功したのに、なぜ検証する必要があるのだということになる。しかし検証しない成功の後に待っているのは失敗である。
前回(その1)では、失敗から多くを学ぶことができる一方、成功は学習を妨げるため次に失敗を誘引するといわれるが、経営者や企業人は失敗から安易に学ぶことができるという誤った認識を持ってはいないか、あるいは成功が学習を妨げるという内容について正しく認識しているだろうか。まず失敗を次に生かすには個人・組織の点からどうすべきかを論じた。今回は、成功について論ずる。
成功から学ぶことは、失敗から学ぶよりも難しい。成功は学習を妨げるからだ。しかし、成功から何を学ぶというのか? 多くの経営者・企業人は、そう思うに違いない。
事実、成功から厳しく学んでいるケースはほとんど見かけない。多くの経営者・企業人は、難しいことをいわなくても成功体験は身体に染み込んでおり、今さら学ばなくてもその方法をまた適用することはそれほど困難ではなく、また成功を得ることはできると思っている。しかし、そこが落とし穴だ。
「成功が個人と組織の学習を妨げ、失敗を生み出しかねない」、「失敗から学ぶことは、人々や企業が習得すべき最も重要な能力の一つであることは言うまでもない。ところが驚いたことに、成功から学ぶことは、失敗から学ぶことよりも難しい」と主張するフランチェスカ・ジーノ ハーバード・ビジネス・スクール準教授の理論(注1)を参考に、経営現場の実態を省みながら、成功から何を、そしていかに学ぶべきかを、以下本音の視点で検討していく。(注1:Diamond Harvard Business Review=DHBR July 2011)
まず、成功を学習することがいかに困難かの実例を紹介する。
中堅エレクトロニクスメーカーD社の成功例である。D社は、競合メーカーであるE社からたまたま情報機器dのOEM受注に成功した。まさにたまたまで、この話はE社からD社に突然持ち込まれた。E社はかねてからdをEグループの関連会社で生産していたが、何らかの理由で他社へOEM生産を依頼することになり、品質で市場評価が高く、dの市場シェアが高くないD社を選んだらしい。
D社はE社へdのEブランド品を納入開始するには、想像以上に多くの問題を解決しなければならなかった。そもそも企業文化が違う。設計から試作・量産に到るまでの工程や期限が全然違ったし、品質・納入期限などに対する考えも異なり、価格も厳しかった。しかしD社はそれらを何とかクリアして納入を開始した。
dの市場シェアはE社が2位、D社は4、5位辺りだったので、D社のd製品担当部門の業績は格段に向上した。D社にとって、E社との間の困難な問題をクリアして業績が向上したことで、十分な達成感と満足感を得て、ともすればD社自身の力だけでE社からのOEM受注に成功したという雰囲気が社内にあった。
D社の好業績が4年ほど続くうちに、d関係者は人事評価で高評価を受け、D社内における発言権も増し、昇進し異例の好処遇を受けた。しかし、この成功の裏には分析・検証しなければならない事項が多く存在したのに、d関係者はそれを怠った。
例えば、「たまたま」OEMの話が持ち込まれたが、その相手の事情とD社が選ばれた理由の解明、企業文化が異なる両者間でその都度何とか収めて来たが、最初から常時発生した大小トラブルの根本的解明、価格低減の要求が徐々に厳しさを増してきたが、価格低減要求の先行きに対する予想とD社の対応見込みの検討。さらにOEMという不安定な顧客に対する将来の保険的対応など、重要事項の分析・検証にD社は真剣に向き合わず、成功に酔って無策の時間を過ごした。
そしてd製品納入開始後4年を経過した頃、大変な事態が発生した。E社からD社に対して、d製品の購入を6ヵ月後に打ち切るという連絡が入ったのだ。理由はE社の内製に切り替えるというのだが、真相は分からない。D社が投資した設備・人員などが当然過剰になり、d製品担当部門の業績は急降下することになる。D社がE社向けOEMの成功に単純に酔って、その成功の検証や、OEMに当然予想される打ち切りに対する準備を怠った付けが回ってきたわけだ。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授