ITリーダーに必要なスキルはITの基本的な概念理解とコミュニケーション力――日本化薬 末續肇氏「等身大のCIO」ガートナー 浅田徹の企業訪問記(1/2 ページ)

「世界的すきま発想。」により、ニッチでも突出した技術で付加価値の高い製品を創出する日本化薬グループ。中期事業計画の全社重要課題の1つであるDXでは、ITの活用で業務全体をより効率的かつスピーディーに変革することを目指している。

» 2025年04月22日 07時01分 公開
[山下竜大ITmedia]

 1916年、日本初の産業用火薬を製造する日本火薬製造株式会社として誕生し、1945年に現在の社名に変更した日本化薬。創立以来、基盤となる「火薬」「染料」「医薬」「樹脂」の保有技術を駆使し、時代のニーズに応える製品を提供し続けている。現在、KAYAKU spirit「最良の製品を不断の進歩と良心の結合により社会に提供し続けること」という企業ビジョンに基づき、「モビリティ&イメージング」「ファインケミカルズ」「ライフサイエンス」の3つの領域で事業を展開している。

 また中期事業計画「KAYAKU Vision 2025」の全社重要課題として、新事業・新製品創出、気候変動対応、DX、仕事改革、働き方改革の5つの課題に取り組んでいる。取り組みの1つであるDXの推進では、プロセスの変革による売上の拡大、およびコスト削減により事業の拡大を図ることを目的に、IT教育や意識改革、ERPやITインフラ再構築などのIT基盤強化、研究開発、生産の各領域で取り組みを進めており、営業・マーケティング、管理の領域についても取り組みを拡げていく予定である。

 業務全体をより効率的かつスピーディーに変革することを目標に、デジタルデータやテクノロジーを活用したIT基盤強化構想の実現を進めている日本化薬 執行役員 情報システム部長の末續肇氏に、ガートナージャパン エグゼクティブ プログラム リージョナルバイスプレジデントの浅田徹氏が話を聞いた。

日本化薬 執行役員 情報システム部長 末續肇氏(左)ガートナージャパン エグゼクティブ プログラム リージョナルバイスプレジデント 浅田徹氏

経営視点でのデジタル化で重要なのは「失敗を許容する文化」を作ること

――まずは、これまでのキャリアについてお聞かせください。

 1988年に物流担当のフィールドSEとして富士通に入社し、多くの物流業のお客様を担当しました。ハンディーターミナルなどを利用したシステム導入や富士通グループ全体の物流ソリューション統合化等を推進しました。その後、日本においては比較的早い時期ではないかと思いますが、戦略企画部門がアイデアソンやハッカソンの取り組みを始め、産業・流通分野のイノベーション創出に向けた横展開なども連携して進めました。

 2016年から1年間、古くからの富士通のお客様であったmizkan(ミツカン)グループへ出向することになり、転籍の要請があり2017年より移籍し、全体で約5年半に渡りグループITガバナンスの構築や日本の各種IT導入・運用保守を行ってきました。2018年には将来のデジタル化を見据えた全体俯瞰イメージ図を作成していましたが、その構想をまとめる上で役立ったのがガートナーの情報でした。

 その後、2021年8月に日本化薬に転職しましたが、IT基盤強化を中心に多くのシステム実装を指揮し現在に至ります。富士通ではお客様サポートを通じ、さまざまなテクノロジーの知見やお客様対応の経験を積み、mizkanではユーザー側からの視点でIT活用を捉え直し、これら両側の経験が今の活動にも生きています。

――最も記憶に残っているできごと、現在の仕事に影響している人との出会いはありましたか。

 行く先々で本当に人とのご縁を感じています。特にmizkanでの経験は、人と人のつながりにおいてとても大きかったと思っています。富士通のときは、担当するお客様とのつながりがほとんどでしたが、ユーザー企業側に移り同業者や異業種、ITベンダーなど、幅広い分野の方々と接する機会があり、より高い視座・逆の立場からITを見る機会を得ることができました。

 富士通時代は、ITだけでなく人間関係の大切さも、入社早々から教えてもらいました。今の自分はお客様に育ててもらったと思っています。入社して3カ月後に、物流担当のSEとして配属され、早速夜間作業の対応がありました。最初の仕事はケーブルの敷設で、その日は私の誕生日でしたが、出張していたお客様が初対面で新人の私のためにお土産を買って来てくれたのです。数年して全国に中型汎用機を展開したときも、作業を終えた後に折角来たのだからと現地のお客様が自宅に泊めてくれ、翌日ご家族と一緒に観光に連れて行ってもらったこともありました。人と人としてのつながりが、仕事においても大切なのだということを知る貴重な経験でした。

 mizkanでの私の役割はIT領域の範疇で、DXは後から入社されたCDOが牽引されましたが、その少し前に代表(会長のことをそのようにお呼びしていました)から「デジタルは何が重要か」と唐突に聞かれたこともありました。私は「失敗を許容する文化」を作ることだと答えました。日本の伝統的な企業でしたが、というよりは“だからこそ”なのですが、将来に対するアンテナはとても高く、常に先の先を考えていらっしゃいました。

 「まず動いてみて着地させてみる、それを繰り返して失敗から学んでいく、そのように考えられる文化の醸成が、デジタル時代には重要です。そのためには、予算も含めた権限の移譲も重要な要素になります」、このようなお話をさせていただいたと記憶しています。

 ここでの経験は厳しいことも沢山ありましたが、いつも心を配って下さり、経営者としてのお考えに身近なところで触れさせていただけたことは、私にとってとても大きな財産となっており、感謝しかありません。

 加えてmizkanでは年に1度、取引先様を招く場が設けられていましたが、そこにIT関連各社のトップが来場し、さまざまな話を聞かせてもらえたことも、人脈や知見の拡大につながっています。

 今の会社に移ってから人のご縁が大きく動き出したのは、23年の夏でした。mizkan時代に初めて参加したIT関連イベントがコロナ以降数年ぶりにリアル開催されましたが、そこで主催者側の皆様と久しぶりに再会しました。その日を皮切りに驚くような偶然とご縁がつながり始め、多くのCIOの皆様や各方面のトップランナーとの出会いが、ものすごいスピードで拡がり続けています。昨年秋にはその主催団体でもあるCIO賢人倶楽部への参加も声を掛けてもらい、ワクワクドキドキが続いています。

 本当に多くの方々に支えてもらい、鍛えてもらって、今があります。

中期事業計画の次の課題は、経営・事業起点のdXに向けていかに備えるか

――仕事において大事にしていることなどあればお聞かせください。

 常に自然体で対応していますが、人と人とのつながりは大事にしています。話をするときに表情を見たり、反応を観察したりして、常に相手の立場を意識するよう心掛けています。富士通時代は、あまり前面に出て意見を積極的に伝えるタイプではなかったのですが、経験を積むなかで人と人のつながりを拡げる素地が出来てきたのかもしれません。

 もう1点は、テクノロジーの理解です。私自身は業務アプリケーション開発などの経験はほとんどなかったのですが、CPUやメモリ、I/Oなど、テクノロジーベースの動作原理を理解することが出来ていったので、障害発生時の問題箇所がどの辺りにあるか、といったことを容易に判断できるようになり自信につながっています。デジタルの時代においてもこの辺りの視点は普遍的に重要だと考えています。

――次に取り組むべき課題は何でしょう。

 中期事業計画「KAYAKU Vision 2025」が2025年度で終了しますが、開始当初の到達目標とした「DX Ready」な状態をまず確立することが課題の一つです。IT基盤の整備は概ね終盤に差し掛かっており、残る大きなテーマであるデータ連携基盤の検討を始めたところです。

 ここまでの『DX Ready』な状態への取り組みは、テクノロジー起点で進められてきました。その先に来る経営・事業変革起点の取り組みとなるdXへの取り組みにシフトしていくことが必要で、これが次期中期に向けて次に取り組むべき課題です。IT(d)はあくまでもツール・手段であり、トランスフォーメーション(X)で何を目的にどうするかが重要です。ここから先の主役は経営であり、事業サイドです。

 2024年度のテーマ“tsukai konasu”は、ここ数年で導入してきたさまざまなITツールを現場がどのように使えばよいか分からない状況が垣間見えてきたことから掲げることにしました。ツールは導入しても使われなければ意味がありません、定着化・浸透化の取り組みが必要です。

 次のステップに向けて、DXリテラシーの底上げを図る全社員向け研修などもしかけてきましたが、その浸透はまだ十分ではないと感じています。そこで2025年度からは“sonaeru”というテーマを新たに加えることとし、“DX特化人材育成研修”を企画し先行的に取り組みを始めています。

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