ITリーダーに必要なスキルはITの基本的な概念理解とコミュニケーション力――日本化薬 末續肇氏「等身大のCIO」ガートナー 浅田徹の企業訪問記(2/2 ページ)

» 2025年04月22日 07時01分 公開
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アイデアは必要だが、いかにアイデアを実装につなげるかも大事

――今後のIT部門、CIO、ITリーダーのあるべき姿をどのようにお考えですか。

 DXの推進は、事業サイドの意識をまず“X”に向けないとゴールにたどり着けないと感じていましたが、DX特化人材育成研修を先行実施して、徐々に軌道に乗り始める印象です。海外視察で危機感を持った役員のトップダウンでの取り組み意識が、この活動の大きな後ろ盾になっています。

 一方で、それを形にしていく上での情報システム部の役割も変化する事が求められます。工場の生産現場でセンサーなどのIoTをどのように導入し、どのような情報を収集して、何を分析するかを考える経験をもった人材は、正直なところ情報システム部門にはほとんどいません。新たなスキルを獲得することが必要です。

 逆に、事業サイドは、デジタルツールで何を実現できるのかの知見を持ち合わせていないので、一緒に考え、お互いにリスキリングしなければなりません。それをけん引するためには、経営や事業サイドの推進意識が大前提とはなりますが、情報システム部門が経営・事業サイドに更に歩み寄っていくことが必要です。

 この状態まで取り組みを進めて来れたのは、攻めと守りの両面にわたる多くの案件をパートナー様の協力も得ながら推進してきた、情報システム部員の意識の変化と尽力の賜物です。大きなプロジェクトもようやく一山超えたので、次のステップに皆と動き出そうと思っています。

――必要なツールはそろったので、いかに経営や事業サイドを巻き込むかが今後の取り組みですね。これからの人材に何を期待していますか。

 前段でも触れたことですが、“d”側を担う上でのスキルとして、ITの基本的な概念を理解していることは大事なことだと思います。ホストコンピュータの世界からオープンシステムに移行し、ウェブの世界になり、DXの世界に向かっています。その変遷の中で、テクノロジーを提供する側の機能は分化し、各分野のスペシャリストに特化していきました。

 逆に分化・特化したものを全体として俯瞰する機能がないとうまくいかない局面が出てきており、ゼネラリストが全体を俯瞰し、スペシャリストが個々のIT活用を推進する。全体を俯瞰する上での一定の普遍的なITの概念理解が必要になる、ということです。

 IT人材はコミュニケーション力を磨くことも重要です。現場から何が求められているかを正確に理解することなくして、最適なシステムやデジタルツールは導入できません。

 IT機能の分化・特化によって、自社だけでは補えないこともでてきます。パートナーとの協業が必要な場面も増えるでしょうから、このとき発注者、受注者という関係ではなく、「ワンチーム」として取り組む体制づくりが欠かせません。その意味でも、多くの人を巻き込む力、コミュニケーション力はますます重要になるので、ぜひ積極的に鍛えて貰いたいと思います。

対談を終えて

 末續さんと話して受ける印象は「しっかりと地に足がついた安定感」です。淡々と、これまで達成してきたこと、体得したこと、考えていることを、過大でも過小でもなく、丁寧に語られます。それは、フィールドSEとしてコンピュータの基礎の習得から、オーナー企業の会長の許で多くの経営者との対話、そして責任者としてDXの推進と、幅広い経験をすべからく実際にされてきた自信がそうさせているのだと思います。また、こうした安定感が、人とのご縁を大切にする末續さんのお人柄と合わさって、新しい機会を末續さんにもたらしているように思います。とても手触り感に満ちた対談でした。

プロフィール

浅田徹(Toru Asada)

ガートナージャパン エグゼクティブ プログラムリージョナルバイスプレジデント

2016年7月ガートナージャパン入社。エグゼクティブ プログラム エグゼクティブパートナーに就任。ガートナージャパン入社以前は、1987年日本銀行に入行し、同行にて、システム情報局、信用機構室、人事局等で勤務。システム情報局では、のべ約23年間、業務アプリケーション、システムインフラ、情報セキュリティなど、日銀のIT全般にわたり、企画・構築・運用に従事。とくに、日本経済の基幹決済システムを刷新した新日銀ネット構築プロジェクト(2010年〜2015年)では、チーフアーキテクトおよび開発課長として実開発作業を統括。2013年、日銀初のシステム技術担当参事役(CTO:Chief Technology Officer)に就任。日銀ITの中長期計画の策定にあたる。

2018年8月、エグゼクティブ プログラムの日本統括責任者に就任。

京都大学大学院(情報工学修士)および、カーネギーメロン大学大学院(ソフトウェア工学修士)を修了。


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