ミッションは日立造船の次の100年を支えるデジタル化を進めること――日立造船 常務執行役員 橋爪宗信氏「等身大のCIO」ガートナー 浅田徹の企業訪問記(1/2 ページ)

先端テクノロジーを活用することで、グループ全体の事業に関する製品や生産技術の高度化、新事業/新製品開発のスピードアップを目指す日立造船。ICTの活用で、さらなる付加価値化を図る取り組みとは。

» 2023年10月31日 07時08分 公開
日立造船 常務執行役員 ICT推進本部長 橋爪宗信氏

 1881年、英国人のE.H.ハンターが日立造船の前身となる「大阪鉄工所」を創立し、造船事業を開始。1943年に社名を現在の日立造船株式会社に変更した。現在、創業以来培った造船技術に基づき、「環境」「機械・インフラ」「脱炭素化」の3つの事業と最先端技術による研究開発を推進。国内外合わせて154社(2023年3月末時点)の日立造船グループ企業により、事業戦略の立案や実行、人材育成に取り組んでいる。

 また新しい中期経営計画「Forward 25」を策定し、その一環として「持続可能な経営の推進(事業価値の向上)」のための重点施策であるDX(デジタル変革)戦略を推進。製品/サービスの付加価値向上を目的とした「事業DX」、業務効率化/生産性向上による働き方改革を実現する「企業DX」の2つのDX、およびDXをグローバルに展開するための「DX基盤」の整備に取り組んでいる。

 こうしたDX推進により、2025年には製品IoT化率60%、DX人材育成数500人を目指している。日立造船のDX推進について、常務執行役員 ICT推進本部長の橋爪宗信氏に、ガートナージャパン エグゼクティブ プログラム リージョナルバイスプレジデントの浅田徹氏が話を聞いた。

若い人が「日立造船に就職したい」と思える会社に

――まずは、これまでのキャリアについてお聞かせください。

 1988年4月に日本電信電話(NTT)のデータ通信事業本部に入社しましたが、7月にデータ通信事業本部の事業がNTTデータ通信(現在のNTTデータ)に譲渡されたため、NTTデータ通信の社員となりました。最初に配属されたのは、OSやコンパイラ、デバッガ、開発環境などを作る部門でした。

 NTTに入社したのは、文系出身でもプログラミングができる会社がNTTのデータ通信事業本部一択だったからです。大阪大学の経済学部では金融論を専攻し、為替レートと貿易収支の関係について学んでおり、その一環として統計学も学んでいました。このときIBMの汎用機「IBM 3090」上で動く統計解析ソフトウェア「SPSS」を使っていて、コンピュータは面白いと思い、個人でPCを購入して雑誌に掲載されているソースコードを打ち込んでゲームなどを動かしていました。

 2年目〜8年目はNTTデータの支社で法人システムの開発を担当し、その後本社に戻りSEを支援するための組織を立ち上げました。そこではプロジェクトマネジメント知識体系ガイド「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)」を活用してプロフェッショナルなプロジェクト管理者を育成し、失敗プロジェクトを減らすことに取り組みました。さらに新規事業開発担当として、社内ベンチャー育成制度の事務局をしていました。この第1号ベンチャー企業が、現在上場企業であるNTTデータ イントラマートです。

 こうした経験が、事業会社のCIOに最適だと判断され、2018年に日立造船に転職しました。実は、NTTデータと日立造船は関係性の高い会社で、2006年3月に日立造船情報システムが株主の変更により「株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ」に社名を変更しています。NTTデータに限らず、バブル期のSI会社はハードな面もありましたが、当時はITやデジタルは楽しい仕事だと感じていました。就職して30数年、現在もその延長線上で楽しく仕事をしています。

――大切にしている信条、価値観、言葉などあれば聞かせてください。

 パーソナルコンピュータの父と呼ばれるアラン・ケイの「未来を予測する最善の方法は自らそれを創りだすことだ(The best way to predict the future is to invent it)」という言葉が大切にしている信条です。人生は一度きりなので、やり残したことがあるともったいない。そこで、未来にも残る仕事にかかわりたいと思っています。いま頑張れば、日立造船の未来にデジタルで貢献できます。若い人たちに「日立造船に就職したい」と言ってもらえる会社を目指しています。

ハンディがある人でも自由に働ける世界をコンピュータで作りたい

――これまでの経験で、もっとも記憶に残っていること、今の仕事に影響を及ぼしていることについて聞かせてください。

 大学は文系でしたが、幼少期は電子工作などの理系的なことが好きでした。また短波放送を受信して楽しむBCL(Broadcasting Listener)も好きでした。天体望遠鏡で星を見たり、宇宙飛行士になりたいと思ったりもしていました。中学生のころSFアニメ、ロボットアニメが人気になり、ロボットを作りたいと考えるようになりました。コンピュータゲームが登場したことで、コンピュータによる未来を本気で想像するようになりました。ハンディがある人でも自由に働ける世界を作りたいと、コンピュータの道に進みました。

 ただし、この仕事は体力と精神力が必要なので、本当に好きでなければ務まりません。プログラムを書いてみると分かるのですが、プログラミングは非常に地道な仕事です。数百行の小規模なプログラム開発であればそれほど難しくありませんが、メガ単位の大規模プログラム開発は何十冊もの小説を書くようなものです。この課題を解決するためには、単純に再利用性を高めて生産性を向上するだけでなく、プログラマーやSEを支援するためのソフトウェアエンジニアリングの技術革新が重要です。プロジェクトマネジメントのスキルアップもとても大切です。

 またトラブルなどで過重労働に至るのではなく、働き方改革を進め、やりがいのある仕事、みんなが楽しいと感じられる仕事にしていくことが必要です。日立造船は、現状ではIT人材は少ないのですが、事業会社でこそデジタルの力は重要になります。そこで日立造船のデジタル力を向上させるための仕掛けづくりに取り組んでいます。

――現在、日立造船でどのようなことに取り組んでいますか。

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