変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変えていくことで、ステークホルダーや社会からの期待に応え続けるアステラス製薬。デジタルを含むさまざまな技術の活用により、イノベーションを継続的に創出できる組織の実現を目指している。
2005年4月、山之内製薬と藤沢薬品工業の合併により誕生したアステラス製薬。「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」という経営理念に基づき、研究開発型のグローバル製薬企業として、積極的に事業展開を図っている。
今回で『「等身大のCIO」ガートナー重富俊二の企業訪問記』は最終回となる。最後は重富氏が、2011年にコーポレートIT部長(当時)を引き継いだ現在のアステラス製薬 情報システム部長の須田真也氏に、これまでのキャリアや大切にしている信条、リーダーに必要なこと、これからの人材に期待することなどについて話を聞いた。
――2005年の藤沢薬品工業と山之内製薬の合併準備で会ったのが最初でしたね。僕は、藤沢薬品工業のIT責任者としてシステム統合分科会に参画し、須田さんは山之内製薬の担当でした。
合併準備と並行したIT関連会社の業務移管プロジェクトは、仕事に対する意識が大きく変わるきっかけとなりました。当時の山之内製薬のシステム統合委員会リーダーに、IT関連会社の業務移管を担当せよといわれたのですが、「IT関連会社の業務も知っている人もいませんが大丈夫ですか」と聞くと、リーダーは「知っている人がいないからできることもある」といわれ了承しました。
IT関連会社の社長にかなりの覚悟を持って業務移管の話をしたところ、社長は「分かった。人のことは俺に全て任せて業務移管の仕事に集中しろ」といってくれました。この方のおかげで、ほとんどの関連会社の社員が国内ITベンダーに転籍しています。このとき重富さんは「鼎(かなえ)プロジェクト」と名付けて、本プロジェクトをリードしてくださっただけでなく、多くのご指導をいただきました。
――鼎は中国古代の器の一種で、3本の脚があります。IT関連会社、委託先の国内ITベンダー、アステラス製薬の3社のプロジェクトという意味で名付けました。このプロジェクトで一番大事だったのは、IT関連会社の社員の将来でした。
当時は情報システム部門運営の事務局的な仕事をしていたので、相手から「ありがとう」といわれる仕事が多かったのですが、このプロジェクトはIT関連会社の方々の業務や人生などを真剣に考えましたし、それでいて委託先との厳しい契約交渉を進めなければならず、通常の業務とは違って精神的なタフさが必要な仕事でしたが腹をくくって取り組み、結果として貴重な経験になりました。
――会社の合併とIT関連会社の業務移管が終わったので、須田さんには英国に行ってもらいましたが、部下を持つという経験をしてほしかったので、ムリに帰国してもらいました。
そうでした、仕事で2年半、英国に駐在したのですが、重富さんに急に呼び戻され、「ERPのグループリーダーをやれ」といわれました。ERPの経験は一切なかったので、「僕にできると思っているのですか?」といったら、重富さんは「僕でも部長が務まるのだから大丈夫」といわれたので、思わず「そうですね」と答えてしまいました(笑)。
実は、初めて部下を持ち、まったく知らないERPを任されたことは大きなプレッシャーでした。2011年にたった15カ月のERPグループリーダー職を務めたところで、重富さんは「退職するから後はよろしく」といって会社を辞めてしまいました。
――須田さんなら大丈夫と考えてのことでした。
当時は、「会社も重富さんも、本当に無茶だなぁ」と思いました(笑)。
――ところで、なぜ山之内製薬に入社したのですか。
小学校のときから理科が好きで、大学も薬学部を卒業したので製薬会社を目指しました。ただし、研究所ではなく、臨床開発に行きたいと思っていました。山之内製薬の臨床開発に先輩がいたので、履歴書を渡したのですが、当時は臨床開発に空きがなく、採用担当者からIT部門を推薦されました。「ITってなんだろう」と思ったのですが、取りあえず「きらいじゃないです」と答えたら研究所のIT部門に採用されました。
――何年入社ですか。
1992年入社です。山之内製薬に入社したときには、同じ会社に長く所属するとは思っていませんでした。しかし、アステラス製薬のIT部門以上に興味を持てそうな会社がみつからなかったので今に至っています。
――仕事をする上で大切にしている信条や価値観、言葉などはありますか。
いくつかありますが、いつも言っているのは、「オープン、オネスト(正直)、フェアー(公平)」です。1997年に初めて仕事でオランダに行ってから20年以上、いろいろな国の人、いろいろな価値観の人、外部の人も含め、さまざまな立場の人と仕事をしてきました。その中で、人に信頼されて、この人とならもう1度仕事をしたいと思ってもらえる人は、どんな人かを考えたときに、オープンで、正直で、公平な人だと考えました。自己紹介で、よくこの話をするのですが、海外の人にも理解されるみたいです。
もう一つは、「運と縁」を大事にしています。運はたくさん転がってきます。「運をつかむ」というのは、転がってくるからです。「運がいい人」は、ちゃんと転がってくる運をつかめるように工夫をして、つかむべき運をちゃんとつかんでいる人です。転がってきた運は、何もしなければ転がって遠ざかってしまうので、運を見つけてつかむという行動が必要です。そして、その運がたくさん転がってくるようにするのが縁です。人とどう接するか、どうつきあうかで縁は変化し、運も変化します。運をつかむことで、自分の成長につながり、会社やほかの人に恩返しができます。
「忙しい」ということも、口にしないようにしています。忙しいという感じは、「心を亡くす」と書きますし、左右を上下にすれば「忘れる」になります。忙しいというのは、「心ここにあらず」の言い訳でしかありません。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授